日本経団連は5月31日、東京・大手町の経団連会館において起業創造委員会(高原慶一朗共同委員長、原良也共同委員長)を開催し、米国をはじめ世界各国でベンチャー企業への投資を行っているデフタ・パートナーズの原丈人会長から次代の基幹産業育成のあり方について説明を受けるとともに、意見交換を行った。
原会長は冒頭、現在のコンピューターはもともと計算を目的につくられた装置であり、コミュニケーションツールとして最適化されていないことを指摘。かつて繊維や鉄が基幹産業となっていた期間が約40年であることを例に出し、近い将来、現在の基幹産業であるITに代わり、機械を使っている感覚なしに簡単にコミュニケーションを図れるPUC(パーベイシブ・ユビキタス・コミュニケーションズ)技術が成長するとの考えを示し、日本がいち早く新産業を牽引する立場に立つことで世界における日本の位置付けを高めるべきと主張した。
また、ベンチャーキャピタルは本来ベンチャー企業のテクノロジーリスクとマーケットリスクを負うべき存在であると述べ、ベンチャーを取り巻く環境が良いと考えられている米国においても、現在のベンチャーキャピタルが単なる未公開会社を対象とする投資ファンド化しており、真に技術革新の担い手となる企業にリスクマネーを供給できていない実情を問題視した。そこでリスクマネーを適切に供給する仕組みを日本が率先してつくり出すべきと指摘。そのため、リスクマネーへの拠出額を所得控除する制度を創出し、民間資金をリスクマネーに向かわせる方策もあり得るとの考えを示した。
さらに、会社は株主のものという考えは誤りであり、本来会社は社会のために貢献するための存在であると主張。株主は社会に貢献する経営陣に事業を委託したと解釈すべきであるとし、事業の結果と関係なくして発生した株価の上昇や下降についてはその都度一喜一憂すべきでないとした。また、株主行動について、革新的技術の開発に必要な資金はそのリスク性の高さから外部調達ではなく内部留保資金でまかなうのが適当とした上で、そのような内部留保資金の配当を求める株主を排除する必要性を強調した。加えて、財務指標を操作し株価を短期的に上昇させる目的でリストラや資産売却を要求する動きを牽制するためにも、短期的な株式の保有を制限する新型株式の発行・流通制度を創出すべきとした。
また、現在関心が高まっているソーシャルアントレプレナー活動についても、デフタ社の出資・経営の下、バングラデシュで行われている教育・医療支援活動の取り組みが紹介された。
委員との意見交換において、原会長は現在世界の優秀な人材がアメリカに多数集まっていることについて、日本の官民の資本がリスクキャピタルを提供し、日本法人を設立してもらい技術開発を米国で進めると同時に、日本で実用化、製品化を進める流れをつくることを提唱した。これによって次世代の基幹産業をつくるべく可能性のあるベンチャーを日本に取り込むことができるとした。これは、次世代のポストコンピューター時代の世界の中心を、シリコンバレーから日本に移す試みである。
同委員会では引き続き、有識者を招いて意見交換を進めつつ、次代を担う起業創出のあり方を取りまとめていく予定である。