日本経団連は5月24日、都内で経済連携推進委員会(米倉弘昌委員長、大橋洋治共同委員長)とヨーロッパ地域委員会(米倉弘昌委員長、佐々木元共同委員長)の合同で懇談会を開催した。
日本経団連では、昨年10月、「経済連携協定の『拡大』と『深化』を求める」提言(2006年10月26日号既報)を取りまとめるなど、経済連携協定(EPA)の推進について、政府・与党等関係方面に働き掛けている。このような折、去る5月8日、経済財政諮問会議の「グローバル化改革専門調査会」において、EPAの加速と農業改革の強化等を内容とする第1次報告が取りまとめられた。そこで、今回の経済連携推進委員会とヨーロッパ地域委員会の合同懇談会では、同専門調査会会長として、報告取りまとめの任に当たった伊藤隆敏東京大学大学院教授から、報告取りまとめに至るまでの議論や報告のポイントなどについて説明を聴いた。
伊藤教授の説明要旨は次のとおり。
グローバル化改革専門調査会では、当初から、日本のEPA締結のスピードと世界の自由貿易協定(FTA)締結のそれに大きな差がある点が議論になった。「このままでは、日本は世界の動きからますます取り残される」というのが委員に共通する危機感であり、強力なリーダーシップの発揮と市場開放の覚悟が求められる。グローバル化を脅威ではなく、むしろチャンスととらえ、強い農業を構築するための国内構造改革が不可欠である。
農業大国である豪州とのEPA交渉は、非常に重要な意味を持つ。日豪EPAが実現すれば、次なる相手国として、米国等も視野に入ってこよう。逆に、豪州が突破口となり、EPAが加速度的に進められてしまうことを危惧する向きもある。日豪EPAは、日本の対外経済戦略を考える上で重要な試金石となろう。
現在、日米EPA、日EU・EPAについては、日本政府のEPA工程表に上っていないが、難しいといわれていた米韓FTAが妥結したことは大きなショックとなっている。韓国はEUともFTA交渉を開始しており、年内に妥結するといわれている。自動車や電子・電機の分野で、韓国企業は日本企業と欧米市場で競合しており、日本企業にとっては大きな脅威となる。
今後の焦点は、いかに早く日豪EPAをまとめ、日米EPA、日EU・EPAに着手するかである。
日本が従来のEPAより自由化率の高いEPAを実現しつつ、世界貿易機関(WTO)農業交渉での議論に積極的に参加していくためには、日本の改革に向けた姿勢を明確にする必要がある。
「EPAによって、3兆円を上回る生産額の減少が生じる」との試算があるが、これは、小麦や牛肉・乳製品などに課される関税を撤廃した場合という極端な前提に立っている。低価格の製品を享受できるようになれば、消費者利益が増大するという点も考慮する必要がある。
内閣府の試算では、農業保護によって消費者は年間2兆円も余計なコストを支払っている。自由化が損害をもたらすという構図は、あくまで生産者の視点からのものであり、消費者メリットは考慮されていない。
EPAの有無にかかわらず、農地の有効利用や土地集約を通じた生産性向上によって、日本農業の競争力強化に取り組む必要がある。