日本経団連は20日、「社会保障制度のICT化促進に関する提言」<PDF>を公表し、政府・与党などの関係者に建議した。同提言は、ICTの活用によって、年金・医療などの社会保障制度を、国民や企業などの利用者の視点に立った利便性の高いものに改善させることを狙いとして取りまとめたものである。
現在、わが国では、政府のe-Japan戦略等を通じて行政手続きのICT化が進められている。社会保障分野においても電子申請が可能なものは多くなってきているが、実際には国民にあまり利用されていない。この理由として、縦割り行政の下、ICT化が行政側の論理で進められ、利用者の視点を欠いていることが挙げられる。日本経団連では、社会保障制度に対する国民の不安・不信感を払拭し、持続可能性を高めるためにも、利用者の視点に立って社会保障のICT化を推し進めていくことが必要だと考えている。
提言では、社会保障制度におけるICT化の阻害要因として、(1)行政内の情報連携不足(2)社会保障関係機関相互で情報連携する仕組みの欠如(3)国民への情報提供不足――の3つを指摘、これらを解消するための課題として、(1)行政内外の情報連携の改善(2)国民の不安を解消させる親切でわかりやすい情報の提供(3)行政サービスの手続きの煩雑さや過剰な事務負担の解消(4)マルチチャネル化の促進――の4つを挙げている。その上で、このICT化がより効果的に展開されるためにも、省庁横断的な仕組みへの改革と、行政サービスのBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)が必要だと考えている。
これらの課題を解決する具体的な施策として、今回提言しているのが「社会保障ポータルサイト」と「社会保障個人勘定」の導入である。「社会保障ポータルサイト」は、社会保障に関するネットワーク上の入口となるサイトのことで、利用者がパソコン、携帯端末、地上波デジタルテレビなどの多様な手段を用いてこのサイトにアクセスし、1人ひとりに割り振られた「社会保障個人勘定」を通じて、社会保障に関する情報提供を一元的に受け取ることや、複数の省庁に関係する手続きをワンストップで処理することが可能になる仕組みである。また、制度運営者が利用者に適したサービスを自動的に抽出し、その情報を利用者ごとに提供するなど、能動的な仕組みを持つことも想定している。提言では、さらに国民1人ひとりに制度ごとの負担と給付の関係を知らせる機能を持たせ、こうした機能を通じて、国民が社会保障制度に親しみ、制度に対する信頼を回復させることを狙っている。
必要な環境整備としては、(1)政府が、基本戦略を策定し、基本骨格・スペックを標準化すること(2)いわゆる社会保障番号のような本人を特定する方法を整備すること(これについては、既存の番号の活用を含め、国民の理解に基づく検討の必要性も併せて指摘)(3)ネットワーク構築における情報の安全性を確保すること――の3点が挙げられる。これらの環境整備に当たっては、将来の民間による活用や、税などを含めた行政全般が対象となるよう拡張性を持たせることも重要としている。
具体的な導入スケジュールは、まず2009年から、社会的実験として、特定企業群を対象にした「リタイアメントポータルサイト」と、特定地域で主に地域住民の医療を対象とする暫定的な「社会保障ポータルサイト」を並行して導入する。
「リタイアメントポータルサイト」は、企業・個人と社会保障関係機関を連携させるもので、団塊の世代が今年から定年退職期を迎えることもあり、これを使って退職関連手続きの案内と一括処理の実現をめざす。また、暫定的な「社会保障ポータルサイト」は、自営業者を含む地域住民を対象にした、市町村国保を中心とする医療に関するネットワークで、これによって医療に関する情報提供と手続きの処理が可能となる。最終的には、これら社会的実験の検証を経て、2010年頃を目途に両者を統合し、全国展開を図るといった2段階の導入を提言している。