日本経団連は12月19日、春季労使交渉における経営側のスタンスを示す『経営労働政策委員会報告』(経労委報告)を発表し、同日、同委員会委員長である岡村正副会長が記者会見した。
2007年版の副題は「イノベーションを切り拓く新たな働き方の推進を」。日本企業が一層激化する国際競争の中に置かれていることを指摘した上で、日本が発展を続けていくためには、国全体の生産性向上が不可欠であり、技術革新や経営革新などの絶えざるイノベーションが必須であると強調している。またイノベーションの原動力である「人材の力」を最大限に引き出すには、やりがいのある仕事と充実した生活の両立が課題として、「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」の推進を労使双方で論議し、新しい働き方を模索することが重要と指摘。賃金決定においては、市場横断的なベースアップはもはやあり得ず、個別労使が自社の支払能力や付加価値の増大を基本として決定すべきとの考えを改めて示している。記者会見で岡村副会長は、「国際競争が非常に激しいという認識を強く持つべき。賃金決定においては自社の国際競争力と生産性に基づいた議論が重要」と述べたほか、短期的な成果は賞与・一時金に反映すべきであるとの認識を示した。報告の概要は以下の通り。
世界経済は、ICT(情報通信技術)の発展と経済活動のグローバル化などを通じて市場主義経済圏を急速に拡大し、経済連携・水平分業の動きを加速、財・サービスの流れも一層複雑化の様相にある。
日本経済は、2006年11月時点で「いざなぎ景気」を超える拡大期間を記録したが、先行きは決して楽観できない。世界経済の構造変化への対応のほか、国内の地域間・規模間・業種間の景気回復の格差解消、競争力のさらなる強化など、さまざまな課題を抱えており、解決のための迅速な取り組みが求められる。
日本が今後も発展を続けていくためには、国全体の生産性を向上させていくことが不可欠であり、そのためには絶えざる技術革新と経営革新、および高コスト体質の改善に取り組むなど、イノベーション(革新)にまい進し、競争上の優位性を築いていかなければならない。企業としては、(1)経営トップによる企業理念・戦略の明確化と変化をいとわない企業風土の確立(2)研究開発投資への積極化とICTの有効活用(3)人材力の強化――への取り組みが急務である。
イノベーションの原動力は人材の力である。そのためには従業員個々人が仕事のやりがい、生きがいを実感できるよう、個々の生活ニーズに即した働き方が必要となる。企業と従業員の協力によって、双方のニーズを満たす新しい働き方である「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」を実践し、今後はその理念に基づき、「多様な人々の就労参加」と「柔軟な働き方」を推進する必要がある。女性や若年者、高齢者、障害者、外国人など、これまで十分に活用されてこなかった人々にも就労機会の提供が一層可能となる。
多様な人材の能力を引き出し、企業の競争力強化に結びつけるためには、仕事、役割、貢献度と整合性を持った、公正で納得性の高い人事・賃金制度の整備が急務である。
今後は年齢・勤続年数に偏重した年功型賃金制度から、社内のさまざまな仕事、役割、貢献度に応じたきめの細かい人事・賃金制度への移行を検討する必要がある。
イノベーションを一層推進するためには、企業が活動しやすい環境の整備が重要である。政府に対しては、(1)「科学技術創造立国」の推進(2)規制改革の断行(3)税制の改正(4)FTA、EPA等対外政策の強化――などを求めたい。また自律的な働き方のための労働時間制度の創設や労働力需給制度、雇用保険制度の見直しなど、労働分野における規制改革が不可欠である。さらに少子化・高齢化が急激に進行する中で、社会保障制度の持続可能性を確保するためには自助努力を基本にし、公的制度への過度の依存は是正していくべきである。
格差がもたらされる事由が合理的で、その事由の回避が可能であるかが重要である。公正な競争の結果として格差が生じることは当然である。しかし、格差の固定化をもたらさないよう、公正な競争、機会の平等を促進し、何度でも再挑戦の機会が与えられることが重要である。
激化する国際競争の中では競争力強化が最重要課題であり、賃金水準を一律に引き上げる余地はない。個別企業の賃金決定は、自社の支払能力・付加価値の増大を基本とし、個別労使で決定すべきであり、企業の好業績により得られた短期的な成果は賞与・一時金に反映することが基本である。
また労働分配率についても、国際競争力強化の観点から、各企業が自社にとって適正な水準はどの程度であるかを中長期的な観点に立って判断していく必要がある。
今次労使交渉・協議も、賃金など労働条件一般について論議を行い、労使の共通認識を深めていくことが重要である。
社会のあり方は、人々の働き方やライフスタイルによって決まるところが大きく、とりわけ経営者は、自らの活動によって社会のあり方に大きな影響を与える。どのような社会をつくっていくかを考え、実行していくことは、経営者の責任・責務である。
企業活動を通じた価値の創造、社会からの信頼の獲得、さらに社会の活力の向上を目標に、公のために働こうとする経営者の志が、具体的な成果として結実したとき、企業は真に社会から評価される存在となる。