日本の活性化のためにはハードよりソフトの充実が不可欠――「日本経団連フォーラム21」が9月に実施した飛鳥合宿で、茂木賢三郎・キッコーマン副会長をはじめとするアドバイザーから、さまざまな提案があった。使用客船は、今年就航した「飛鳥II」。「世界の中の日本」を総合テーマにアドバイザーとメンバーが、企業経営から外交問題まで、幅広い問題について討議を重ねた。
1990年にスタートした同フォーラムも今年で17期。恒例となった飛鳥合宿に今回も多くのメンバーが参加した。
船内合宿を前にまず、山内昌之アドバイザー(東京大学大学院教授)が「日本と中東〜危機のなかの対話」と題して講演を行った。
講演の中で山内教授は、中東が現在、さまざまな危機に直面している状況を紹介。その中で日本、日本人がどのような役割を果たすべきか、新しい外交の観点から考えていくことが重要であると強調した。
また、そのためには、日々インターネットなどで飛び交う「速い情報」ではなく、長年国家が育んできた文化などから得られる「遅い情報」を重視しながら、異文化を理解していくことが求められると指摘。さらに、イスラムの問題がヨーロッパにも飛び火し、各国でさまざまな軋カみつつあることに懸念を示し、わが国としては、中東をはじめとする人々と文化面での交流や対話を増やし、日米が反イスラムで結ばれているのではないことを伝えていくなど、まだまだできることが多いことを力説した。
船内では、「世界の中の日本」をメーンテーマに、進行役を茂木氏が、パネリストを山内教授と寺島実郎・三井物産戦略研究所所長が務め討議を行った。
冒頭、パネリストが勤労者世帯可処分所得の減少、破産申し立て件数の増大、出入国者のアンバランスなど「失われた10年から見えてくるもの」について考えを提示。続く討議ではメンバーも参加し、日常の企業経営に関する問題から、政治や外交、中国・東アジアをめぐる問題まで多岐にわたり意見交換を行った。
どのように日本を活性化するかというトピックでは、「ハード面よりもソフト面での充実が不可欠」で意見が一致。加えて、「アジアの中で、思想やビジョンを軸とした求心力を踏み固めることも必要」「歴史観をバックボーンとして、自分がいまどこに立っているのかを常に認識することが、これからの行動で大切なこと」など、期待を込めた提案もあった。
日本経団連フォーラム21は、次代の産業界を担うリーダーの育成を目的に1990年に開講。1年間の研修期間中に、各界の一流講師陣による多彩なプログラムを通じて経営幹部にふさわしい視野と人望の獲得、戦略思考力とマネジメントの向上をめざす。飛鳥合宿もプログラムの一環として毎年実施し、船上生活の体験と船内での徹底した討議が好評を得ている。