日本経団連タイムス No.2817 (2006年6月15日)

第95回ILO総会開幕

−立石使用者代表、CSRの根本は経営者の経営哲学であると強調


ILO(国際労働機関)の第95回総会が5月31日、スイス・ジュネーブで開幕した。会期は6月16日まで。日本経団連は、立石信雄国際労働委員長を代表とする7名の日本使用者代表団を派遣している。立石使用者代表は7日に行った代表演説の中で、企業の社会的責任(CSR)は、単なる企業ガバナンスのツールではなく、経営者の経営哲学に根ざすものであると主張するとともに、CSRを推進していくために果たすべきILOの役割を指摘した。

グローバル化の進展などに伴い、仕事の世界がどのように変化しているのか、またその変化を踏まえて、ILOの掲げるディーセント・ワーク(人間らしい仕事)実現のために、各国の政労使はどう取り組むべきかなどについて問題提起する内容の事務局長報告が、今回の総会に向けて発表された。この報告を受け、同会議では各国の政労使代表が今後のILOの活動のあり方などについて見解を述べた。

7日に代表演説を行った立石使用者代表は、企業は経済的な存在であると同時に、「社会の公器」と称される社会的な存在として、社会全体を豊かにしていく使命が課せられていると指摘。CSRの出発点は、社会からの期待にいかに応えていくか、という経営者の経営哲学そのものであって、単に法を補完する企業ガバナンスのツールではないと主張した。
さらに、各経営者がどのように社会からの期待に応えるかは、企業によって多種多様であり、それこそがその企業独自の存在意義であって、CSRの取り組みは各企業の自主性や多様性が尊重されるべきであることを強調した。
またILOに対しては、法令整備など各国政府が果たすCSRの環境づくりをサポートする必要があるとの認識を示すとともに、CSRの推進には企業と社会との緊密なコミュニケーションが不可欠であり、従業員という重要なステークホルダーとの対話促進の面においても、ILOは大きな役割を果たすべきであることを指摘した。

技術議題の審議状況

第4議題「労働安全衛生のための促進的枠組み」(基準設定・第2次討議)

職場における労働者の疾病や負傷等の予防は、ILOの活動にとって重要なテーマであり、ILOはこれまでに17の条約、29の勧告などを策定してきた。同議題は、労働安全衛生のさらなる取り組みを促進するため、安全文化の確立や国家プログラムの作成を奨励する枠組み文書の採択をめざすものである。昨年の第1次討議の結果を受け、「勧告で補足された条約」を策定することが決まっており、より多くの国が批准できる内容とすることを目標としている。
第1次討議の結果を踏まえILO事務局がまとめた条約・勧告案に対しては、使用者側および多くの政府からおおよそのコンセンサスが得られている。そのため、労働側から、これまでにILOが策定した条約や勧告との関連付けや、労働安全衛生における労働者の権利を条文に付加することが主張されているが、これらは受け入れられず、ほぼ原案に沿った形で審議が進んでいる。これまでに条約部分の審議を終え、現在、勧告部分の審議を進めているところである。

第5議題「雇用関係」(基準設定・1回討議)

近年、従来の雇用関係にある労働者とは異なる一定の就業者、すなわち個人事業主として独立し業務委託を受け報酬を得るという働き方が各国で増加している。こうした中、コスト削減等を意図して雇用者を独立させ、本来の雇用関係を隠し、雇用者を法令保護の対象外とする「偽装された雇用関係」という問題が出てきている。同議題は、各国がこのような就業者に適切な労働保護を与える際の指針となる勧告の策定をめざすものである。
ILO事務局がまとめた勧告案には、各国の政策として雇用関係の範囲を明確化して偽装雇用を防止する措置を求めること、雇用関係の存在を決定するための条件や指標策定の検討を求めることなどが盛り込まれている。これまでの審議では、偽装された雇用関係の定義、指標を具体的に示すことの是非、指標に合致した場合の雇用関係の推定など、数多くの争点があり、労使の意見が激しく対立している。このため、審議がしばしば中断され、政労使の作業部会で打開策をめぐって検討が進められている状況である。

第6議題「技術協力におけるILOの役割」(一般討議)

ILOでは、国際労働基準の設定や実施状況の監視とともに、主に途上国を対象に、労働に関する政策の立案や実施について技術指導などを行う「技術協力」が活動の柱となっている。こうしたことから技術協力については、定期的に総会議題として取り上げられており、今回も一般討議として広く議論を交わし、技術協力におけるILOの将来方向を討議することを目的としている。
技術協力の役割がますます大きくなっていること、国際機関の中でILOが持つ比較優位性である三者構成の仕組みを活用し、技術協力活動を有効に実施すべきであることについては、政労使三者の認識が一致している。しかし、力点を置くべき活動内容に関しては見解が異なっている。使用者側は、ディーセント・ワークの実現という目標を達成するためにも雇用創出につながる活動を中心に行うべきとしているのに対して、労働側は、ILOの策定した条約の批准に直接つながるような活動を行うべきであると主張している。

【労政第二本部国際労働担当】
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