日本経団連の経済政策委員会統計部会(佐々木常夫部会長)は10日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、信州大学の舟岡史雄教授から、統計制度改革の方向性について聴いた。
政府統計をめぐっては、経済財政諮問会議の骨太の方針(経済財政運営と構造改革に関する基本方針)を受けて設置された統計制度改革検討委員会において、抜本的な制度改革が検討されている。
同委員会委員を務める舟岡教授は、現在の統計制度の課題として、第1に、統計を公共財として位置づけるべきことを指摘した。すなわち、「大半の政府統計は、行政施策の企画・立案の基礎情報のための利用を第一義として作成されており、社会・国民にとって有用であるとの観点から整備されていない」と説明した上で、「基本的視点を『行政のための統計』から『社会の情報基盤としての統計』に転換することが不可欠」と主張した。
第2に、「分散型統計機構の下で、統計行政の調整機能が十分に役割を果たしていない」「例えば、農林水産関連分野の統計が詳細に作成されている一方、サービス活動の実態を明らかにする統計は不足しており、GDPの推計にも支障を来たしている」と述べた。各国の統計機構は、政府部内の関係機関がそれぞれの所掌に応じて統計を作成する分散型と、統計整備に係るほとんどの事務を1つの政府機関が行う集中型に分類される。日本は前者に属するが、「諸外国と比較して、特に分散の度合いが強い」とした上で、「統計整備に関する『司令塔』機能の強化が必要」と指摘。「司令塔」が有すべき機能として、企画立案・調整、SNA(国民経済計算)など基本統計の作成、統計の基盤整備(統計職員の専門性向上、研究開発等)を挙げた。
第3に、「諸外国で近年積極的に進められている行政記録の活用が、日本では遅れている」と説明した。行政記録の活用は、統計作成の正確性、効率性、報告者負担の軽減等の観点からメリットが大きいことを踏まえ、「ニーズに即した行政記録の統計化に向けて、法令に根拠規定を定める等、具体的な仕組みの確立が求められる」と主張した。
第4に、あらかじめ定められた統計を作成する以外に、統計調査の個別情報を利用することは、原則として禁じられていることを紹介し、「統計に対するニーズ、情報技術の進展等を踏まえた統計の利活用が進んでいない」と指摘。「個別情報の秘密を守りながら、統計データの2次的利用を促進すべく、データの保存・提供機能をもつアーカイブの構築等を検討すべき」と述べた。
そして、以上の観点から、「統計法の抜本的な見直しが必要である」と主張。新たな法制度は、上記課題に対応するとともに、(1)すべての統計に通ずる規範とする(2)基本原則として、普遍性、信頼性、比較可能性、機密保護、透明性、適時性、効率性、データへの容易なアクセスを明示する(3)中長期的かつ全体的な視点に立った基本計画を制度化する(4)統計体系の根幹を成す「基幹統計」とそれ以外の「一般統計」の規律を整備し、とりわけ基幹統計については政府全体として責任を持って提供する――こと等が求められるとした。
最後に舟岡教授は、「統計制度改革検討委員会は、今年3月の中間整理、6月の報告書取りまとめに向けて、引き続き議論を進めていく。経済社会の実態を的確に捉える統計の整備、制度改革の推進に向けて、ご支援を賜りたい」と理解を求めた。