日本経団連タイムス No.2798 (2006年1月26日)

日本経団連労使フォーラム/パネル討論

−「競争力強化のための人事戦略」


日本経団連労使フォーラム2日目に行われた、パネル討論「競争力強化のための人事戦略」におけるパネリスト、コーディネーターの発言要旨は次のとおり。

次世代の実力向上へ【平山氏】

新日本製鐵ではこれまで人事施策を進めるに当たって、(1)生産性向上の徹底的な追求 (2)処遇における年功的部分の圧縮と能力伸張・業績反映部分の拡大の一貫した追求――を2本の軸としてきた。
今後、コスト面での国際競争力を確保し、世界最先端の商品を提供するユーザー産業群に世界最先端の鉄鋼製品を供給し続けていくために、人事施策面で、3つの基本軸を据えている。その第1は、さらなる生産性の向上であり、技術革新をキーにして今後もこれを追求していく。第2は従業員個人・組織の業績の処遇への反映度を高めるための制度づくりと、その定着である。すでに賞与制度については2002年度から改定に着手している。第3は、人材力の強化である。従業員が少数化し、その世代交代を控えている現在、次代を担う世代の実力向上を図っていくことが非常に重要である。そのため、人材育成を仕組みで担保できるツールの整備や、現場の管理監督者の能力強化に着手している。

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東芝では、成果主義をどう進めていくかが、競争力強化のための課題であると認識している。その成果主義を支えるため、事業分野に対応した処遇制度づくりを行っている。社内カンパニーの処遇制度については、全社共通の1階部分と、それぞれのマーケットの労働市場に見合った各カンパニー独自の2階部分という2層構造をとっている。また、バランスド・スコア・カードとシックス・シグマの手法を取り入れた評価制度を導入するとともに、社員1人ひとりに適合するオーダーメイドの研修プログラムの構築に着手している。
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多様性など3点軸に【伊地知氏】

トヨタ自動車では、競争力の源泉は働く人の意欲と活力だと考えている。経営環境の変化、グローバル競争の熾烈化を踏まえ、従業員1人ひとりの力を最大限発揮できるような環境を労使で整備していくのが、最優先課題である。
人事課題への取り組みに当たっては、多様性、人材育成と能力主義、企業理念の共有の3点が軸になる。性や国籍、雇用形態を異にする多様な従業員1人ひとりが活躍できるようダイバーシティプロジェクトを立ち上げ、賃金・退職金の年功要素をなくし、労働負荷の適正化や業務の改廃に取り組んでいる。またグローバル化が進み海外拠点が増加し、企業理念の共有化が難しくなったことに対応するためには、企業理念や仕事の進め方を明文化・体系化し、これを実践する機関を設置した。今後の課題としては、海外事業所での人材育成強化による、現地採用者の自立が挙げられる。

人口減少時代に対応【横山氏】

運送事業は典型的な労働集約型の事業である。日本通運にとって競争力とは、人件費コストと提供するサービスのレベルを意味する。なるべく安いコストで、できるだけ優秀な人材を雇用し、可能な限り高い質のサービスを提供するというのが、人事の考え方になる。
今後、労働力人口は減少していくが、それに伴って国内貨物輸送量も減少していく。そうなると確保すべき人員数も減っていく。こうした視点から考えると、採用活動が厳しくなる中で、賃金を引き上げて多数の人材を確保しなければいけないということにはならないのではないか。今後の採用活動も、今次労使交渉も、こうした観点から考える必要がある。

人事戦略こそ経営戦略【久谷氏】

技術革新が進み、競争が激しくなる中で人事労務部門は戦略部門になった。人事戦略こそが経営戦略である。
各氏が発言したとおり、競争力強化のための人事戦略とは、働く人1人ひとりが、持てる能力と意欲を100パーセント発揮できる仕組みをつくるということである。キーワードとしては、コスト、技術、ダイバーシティを挙げることができる。
日本全体が大きなパラダイム変化に直面している中での今春の労使交渉は、きめ細かく、ていねいに行われなければならない。競争力強化のために、何が必要かを考えながら、労使の相互理解を深めることが必要である。

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