日本経団連の少子化対策委員会(茂木賢三郎委員長)は8月31日、東京・大手町の経団連会館において同委員会の下部組織である企画部会(上坂清部会長)との合同会合を開催した。合同会合では、東京大学社会科学研究所の佐藤博樹教授から「未婚化・少子化と企業の役割〜子育て支援から両立支援へ」と題する講演を聴取した後、前回8月4日の会合に引き続き、同委員会の今年度の具体的な検討項目について意見交換を行った。
佐藤氏は少子化の原因について、夫婦の出生行動の変化だけではなく、結婚行動の変化によるものもあると指摘。その上で、「未婚化にも注目する必要がある。政府や企業の取り組みは出生行動に関するものが主となっており、未婚化に関する施策は皆無に近い」と述べた。
さらに、「未婚化は個人の結婚行動の変化に起因するだけではなく、職場社会や地域社会の構造、人間関係の変化に起因する部分が大きい」とし、「企業は未婚化対策としてだけではなく、企業経営上も社会構造の変化への対応が不可欠になる」との認識を示した。
佐藤氏はまた、従業員の属性や価値観・ライフスタイルが変化する中で、仕事と仕事以外の生活の両立支援が新しい労働条件となっていると述べた上で、「企業が取り組むべきことは少子化対策ではなく、両立支援である」との考えを示した。
両立支援の留意点として、(1)働く人々が希望する生活と仕事の両立を阻害する要因を取り除き、両立を可能とするための取り組みであること (2)企業経営の目的は子育て支援自体ではなく、子育てと仕事の両立支援であること――などを挙げ、両立支援は必ずしも子育て支援に限定されるものではないと述べた。
さらに、両立支援は制度整備だけでなく、各職場での運用がポイントであると指摘。例えば育児休業は、職場の中核社員が取得する時代になり、代替要員の配置では課題は解決せず、仕事の仕方や人材育成の見直しが不可欠となることから、職場の人材活用の担い手である管理職の役割が重要であると語った。あわせて、「両立可能な職場は高生産性職場となり得る」ことを強調した。
最後に佐藤氏は、男性の子育て参加についても触れ、「子育てへの関わり方の選択は夫婦の問題であっても、仕事と子育ての両立は本人の努力だけでなく、企業、上司、同僚の支援にも依存する。男性の子育て参加が進展しないと、企業・職場における女性の活躍の場が拡大しない」ことに言及。その上で、(1)男性の子育て参加進展の結果として男性の育児休業取得が進むことが望ましい (2)特定の企業だけが両立支援を充実しても問題は解決しない (3)両立支援推進と同時に男女の雇用機会均等施策の推進も必要――と総括した。
講演聴取後、事前に各委員から寄せられた意見も含め、同委員会の今年度の具体的な検討項目について意見を交換。意見が多岐にわたったことから、茂木委員長、上坂部会長一任とし、今後、より具体的な検討を行うこととなっている企画部会の中でさらに議論していくこととなった。