日本経団連・第4回東富士夏季フォーラム <第2日> 第3セッション
ものづくりには現場発の戦略論、それも日本らしい戦略論が必要だ。日本企業は擦り合わせ型の製品で強さを発揮してきた。擦り合わせ型の製品を分解してみると自社製品専用部品率が高い。
メディアは高みから「ものづくりに空白の10年があった」と指摘するが、実は「ものづくり論」に空白の10年があったのであり、日本の生産現場はきっちりと仕事をしてきた。
ものづくりのポイントは、設計にある。ものづくりとは、設計情報の創造と転写であり、設計の意図を素材に転写していくことである。この点、製造業もサービス業も本質的な区別はない。
商人的な能力が高いトップと、強固な擦り合わせ職人集団を有する企業は儲かる。社長を含めて全員職人気質では儲からない。日本企業は、ものづくり組織能力(整理整頓、問題解決、改善など)をベースとする「裏の競争力」(生産性、コスト、生産リードタイムなど)をめぐり、現場対現場で常に競争している。しかし、「表の競争力」(価格やブランド力などお客が評価する製品の実力)の面では弱い。
モジュラー(組み合わせ)・アーキテクチャーは、機能と部品が1対1になっており、パソコンなどがこれにあたる。一方、車のようなインテグラル(擦り合わせ)・アーキテクチャーは、こうした単純な対応でなく、部品を相互調整しながら製造する。長期取引で阿吽の呼吸ができあがっていないと、良い製品ができない。米国と中国は、「汎用部品の寄せ集め」の分野で競合している。日本が勝負すべきなのはこうした分野ではない。企業風土との相性の良さで、どちらかのアーキテクチャーを選択することになるが、同時にお客がどちらのアーキテクチャーがよいかを選択をする。お客がモジュラーでいいというのに、インテグラル・アーキテクチャーの製品を製造しても過剰品質と言われるだけだ。
企業のアーキテクチャー位置取り戦略は、(1)中外ともにインテグラル型の製品(設計の擦り合わせにも対顧客の擦り合わせにも力を入れる製品) (2)中はインテグラル、外はモジュラー型の製品(設計の擦り合わせに資源を投入し、対顧客の擦り合わせは簡略化したもの) (3)中がモジュラーで外がインテグラルの製品(対顧客の擦り合わせに資源投入し、設計の擦り合わせは簡略化したもの) (4)中外ともにモジュラー型の製品(汎用部品、汎用施設の寄せ集め)――の4種類から、自社の強みを踏まえてどれを選択するかにかかっている。
日本には、擦り合わせ過剰の傾向もある。顧客に鍛えられているわりには儲からない。擦り合わせで鍛えた組織能力で、他の分野で儲ける手立てを考えることも重要であろう。ただし、中モジュラー・外モジュラー戦略はとらない方がよい。