日本経団連タイムス No.2767 (2005年5月19日)

安全・安心な地域社会づくりへ

−「企業の防犯への取組みと課題」提示/治安・防犯対策、「基本的部分は国・地方自治体が中心で」


提言の概要図

日本経団連は17日、「安全・安心な地域社会づくりに向けて〜企業の防犯への取組みと課題〜」と題する報告書を公表した。同報告は、日本の治安の状況が近年悪化していることを踏まえ、犯罪の増加に歯止めをかけ、国民の不安感を解消するために、産業界・企業として取り組むべき方策を中心に検討し、その検討結果をとりまとめたものである。

近年、日本の治安悪化に対する国民の不安感が増大している。内閣府が2005年2月に実施した「社会意識に関する世論調査」によると、「日本社会で悪い方向に向かっていると感じる分野」(複数回答)として、「治安」を挙げる人は47.9%と最も高く、前回調査(04年1月)の39.5%から大幅に増加、約6年前の調査(1998年12月)の18.8%からは約30ポイントも増加している。
こうした国民の意識を裏付けるように、刑法犯の認知件数も03年、04年は若干減ったものの、02年までは7年連続で戦後最多を更新している。また、犯罪件数が増える一方で、刑法犯の検挙率は低下してきている。

近年の日本の刑法犯罪増加の特徴として、いくつかの点を指摘することができる。まず犯罪行為者でみると、少年や外国人が増加しており、次に犯罪の種類別にみると、凶悪な重要犯罪(殺人や強盗、放火、強姦、略取・誘拐および強制わいせつ)が増加している。さらに、犯罪を発生地域別にみると、従来、東京や大阪などの大都市部でより多く発生していた犯罪が、人口比でみると日本全国で分散して起こるようになってきたといえる。
また、こうした犯罪増加の要因としては、日本国民の意識変化や地域のコミュニティ意識の希薄化、地方社会の都市化などによる犯罪の全国への分散化などを挙げることができる。

こうした中、日本経団連では、2004年版「経営労働政策委員会報告」で「企業や従業員が安心して経済活動に従事するためには、社会の安定、すなわち国内の治安の確保が不可欠である」と指摘。これを受けて昨年7月以降、安全・安心な社会を回復するために、産業界としてどのような取組みが行えるかについて検討を重ね、今回の報告をとりまとめた。
なお、同報告は、日本国内における治安・防犯対策に限定して、産業界・企業が取り組むべきことを中心に検討したものである。
日本経団連は、(1)治安の維持は社会・経済活動の基盤である (2)日本の治安の現状は悪化する傾向にあり、現状を放置すると、さらに深刻化することが危惧される (3)こうした状況下において、国を挙げて、安全で安心して暮らせる社会秩序の実現に一段の注力が必要である――との認識を持っており、こうした問題認識を基に、治安・防犯対策に対する「産業界としての基本的考え方」をまとめた。

個人の自衛意識も促す

同報告では、産業界としての基本的考え方の第1として、治安・防犯対策の基本的部分は国および地方自治体が中心となり、責任を持って行うべきものであり、またその前提として国民1人ひとりが「自らの安全は自らの手で守る」という自衛の意識を持つことが基本となることを指摘。基本的考え方の第2として、現在の状況に危機感を持ち、国・地方自治体や個人、地域社会の取組みに加えて、産業界・企業も社会の一員としてその役割を担う必要があることを述べている。
また、犯罪抑止のために産業界が対応する方策を(図表参照)、(1)企業が本来業務として、積極的に取り組む施策(主にコンプライアンスの観点から) (2)国や地方自治体、地域社会が主体的に行い、産業界が側面から支援する施策(主にCSR=企業の社会的責任の観点から)――の2つに大別した。
その上で同報告は、こうした取組みを通じて、今こそ国・地方自治体、地域、個人、企業がそれぞれの役割を果たし、国を挙げて、安全で安心して暮らせる社会の実現に注力すべき時であると結論付けている。

【労働法制本部安全・衛生担当】
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