日本経団連タイムス No.2764 (2005年4月21日)

日本経団連が「労働におけるCSR講演会」

−ホフマイヤー・ILO多国籍企業プログラム長が講演


日本経団連は8日、東京・大手町の経団連会館にILO(国際労働機関)のハンス・ホフマイヤー多国籍企業プログラム長を招き、労働におけるCSR(企業の社会的責任)講演会を開催、立石信雄国際労働委員長をはじめ、会員企業の人事・労務やCSR担当の経営幹部ら、約100人が参加した。

冒頭のあいさつで立石委員長は、日本企業が従来から「人間尊重の経営」を実践していることを指摘、「労働分野のCSRについては胸を張れる」と述べた上で、現在求められているのは、「個人の価値観が多様化する時代にふさわしい形で人材を遇し、良好な労使関係を発展させること、また経営の考え方を外部からわかる方法で表現し、さらには国際的な関心や価値にも配慮しつつ積極的に発信していくことである」と語った。

堀内光子ILO駐日代表によるILOの概要とCSRに関する活動の紹介に続いて、ホフマイヤー・プログラム長が講演を行った。ホフマイヤー・プログラム長はまず、ILOが1977年に採択した「多国籍企業及び社会政策の原則に関する三者宣言」に言及。三者宣言が、(1)雇用や訓練、労働条件・生活条件、労使関係などの分野におけるガイドラインであること (2)多国籍企業のみならず、政労使の役割と責任について言及しており、全ての国に平等に適用される、社会的責任に関する普遍的な参照基準であること――を説明した。
また、これまでILOが、企業と直接的に関係を持つことが少なかったのに対して、現在は三者宣言の実践として、途上国を中心に、児童労働や強制労働撲滅などを企業に対して直接働きかけるようになっていることを紹介。さらに今後は、日本企業が三者宣言の内容をよく理解するよう、「日本語の資料を充実させるとともに、日本企業向けの講演会を開催するなどしていきたい」との意向を示した。

ISO(国際標準化機構)で始まった社会的責任に関するガイダンス文書策定作業については、ILOが、労働分野におけるILOの役割を尊重する内容の覚書をISOと締結、これに基づき策定作業に参加していることを説明。「三者宣言などILOの原則が正しく織り込まれたガイダンス文書ができあがることを期待している」と語った。

また、第三者認証を目的としないガイダンス文書を策定することになっていることについては、「できあがった文書が認証機関などによる認証に使われるリスクは否定できないが、社会的責任という複雑な問題を認証することは困難であり、認証につながらないよう、使用者団体などと協同して対応していきたい」と述べた。

中国におけるCSRに関連して、ホフマイヤー・プログラム長は、中国の労働法規は整備されているものの、地方政府が外資誘致のために法規の運用を緩くする傾向があることを指摘。その一方で、労働条件などについては、地方政府が認める低い運用基準に対して従業員が事業主を訴え、従業員が勝訴するケースも出てきていることを挙げ、「個別企業としては、法規を超えた行動規範などを整備し、実践していくことで、従業員と良好な関係を築く必要がある」と述べた。

最後に日本企業の取り組みについて、「日本企業はこれまで雇用維持、労使協調など従業員重視の経営を実践してきたが、今後は国内のみならず進出国においても、そのような経営を広めていくことを期待している」とした上で、「その際は、現地の国内法を順守することはもちろん、従業員との対話を通じて、より高いレベルのCSRを実践していくことが求められる」と語った。

【労働法制本部国際関係担当】
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