日本経団連は3日、東京・大手町の経団連会館で、第4回「キャリア形成支援のあり方に関する研究会」(星野諭座長)を開催し、アメリカンマネジメントアソシエーションインターナショナル最高顧問の住友晃宏氏から「アメリカにおける人材育成の現状と課題」をテーマとする講演を聴取した。
住友氏はまず、アメリカ人と日本人の特徴について言及、ディベート(自己主張)に強く、1人の方が力を発揮するアメリカ人と、チームワークをうまくとり集団で強い力を発揮する日本人とでは根本的に差異があると述べた上で、両国の若者の就労意識や就職に対する考え方の違い、アメリカ企業の人材育成・能力開発への取り組み状況を紹介した。
この中で住友氏は、個々人の得意分野を早い段階から見極めようとする意識の強いアメリカでは、中学の頃からディベートの練習を行い、ボランティアとして社会的なプロジェクトに参加するなど、将来の就職を見据えたプログラムが用意されており、「学歴」ではなく「学習歴」が優先される社会であると指摘。これは、日・米の仕事に対する考え方にも反映されており、アメリカでは、(1)日本のような終身雇用、終身就職という感覚は全くなく、常に次のステップを考え、社員教育やトレーニングに熱心な企業選択に焦点を当てている (2)教育とトレーニングを無視しては、グローバルエンプロイヤビリティは絶対に確立されないというコンセプトが労使双方に定着している――などと語った。
また、トレーニングの最近の傾向については、実務体験豊富な講師陣が実務者に教育することやグローバル化の進展に伴い、事業部やビジネスユニット、プロジェクトチーム単位でのトレーニングが急増していると説明。さらに、アメリカではトレーニングの結果のフォローを厳しく行い、企業の生産性に寄与しない社員は、容赦なく切り捨てるといった点で日本とは大きく異なるとつけ加えた。
一方、現在の日本は自信喪失感や閉塞感が広がり、倫理観や社会的使命感も失われていると指摘。その上で、少子・高齢化の影響により社会の活力が低下する中で、厳しい企業間競争を勝ち抜いていくためには、これまでの単一の価値観で固められた教育方針を、いかに個性的なトレーニングに移行していくかが大きな課題であると強調した。最後に住友氏は、「まず社長自らが変わろうとしなければ、企業は改革できない」と結んだ。
「キャリア形成支援のあり方に関する研究会」は、時代の変化に対応し得る、社員一人ひとりの能力や適性に焦点を当てた人材育成、能力開発のあり方や具体的な方策について検討を行うことを目的に、昨年11月に教育問題委員会(草刈隆郎委員長)の下に設置されたもの。今後は、個々の強みや持ち味を活かした多様な育成支援策について論議・検討を進め、今秋を目途に報告書をとりまとめることとしている。