日本経団連は19日、都内で「日本経団連キャリア・アドバイザー(NCA)フォローアップ講座」を開催、約50名のNCA資格者が参加した。6回目となる今回は、臨床心理士の森崎美奈子氏を講師に迎え、「企業におけるメンタルヘルスケアの実際」に関する最新の知識や留意点などを学んだほか、実際にキャリア・アドバイザーとして活躍しているNCA資格者からの経験談を聴取した。
講演の中で森崎氏はまず、身体・精神を良好に保つことは、基本的人権のひとつであり、企業にとっては「安全配慮義務」、労働者にとっては「自己保健義務・職務専念義務」にあたると説明するとともに、労働者の価値観や企業環境の変化などによってストレスを感じている労働者が増加し、精神的疾患による労災申請件数や自殺者数が増加していると現状を分析した。
こうしたことを踏まえ、キャリア・アドバイザーは、メンタルへルス不全を、職場のストレス対策や人事・労務管理、労働衛生などと同じリスクマネジメントの一環と捉え、職場不適応者対策として取り組む必要があると指摘。さらに、その取り組みの原則として、身体的疾病者対策と同様に、(1)健康診断の実施と適切な事後措置 (2)適切な診断と治療 (3)業務調整 (4)適正配置――で対応することを挙げた上で、プライバシーや人権への配慮は当然だが、本人のためには介入する必要がある場合もあると注意を促した。
また、職場復帰を円滑に進めるためには、本人や上司、人事労務担当、保健スタッフ、主治医などの連携が不可欠であることを強調。さらに、職場復帰は、本人の希望を尊重した早期復職が多いが、性急な復職が再発につながることもあり、結果として、本人だけでなく周囲も無力感に襲われ、組織力が低下することにもなりかねないと警鐘を鳴らし、「復職の最終権限は、企業側にあることを忘れてはいけない」と結んだ。
続いて行われた経験交流会では、実際にキャリア・アドバイザーとして活躍しているNCA資格者2名が、自身の経験談を披露した。
まず、21世紀職業財団・雇用管理アドバイザーが、「これからの人材管理と女性の活躍」と題して講演した。その中で、意欲にあふれて就職した女性がやる気をなくしていく要因として、男女別の雇用管理があることを挙げ、性別に関係ない長期的・計画的視野に立った育成が望まれると述べた。また、女性が管理職になることを躊躇するのは、周囲の視線が影響しているとし、複数の女性が同時に昇進することで、不要な軋轢を回避できるとの具体策を示した。
次に、「大学における就職活動の実態」について講演した短期大学のキャリアサポート課長は、初・中等教育課程での課題を先送りしたしわ寄せが大学にきていると述べ、全体講義が成立しない程に学力に差があることや、聞けば必ず正解を教える教育によって、自分自身で課題を見つけて答えを考える力が培えていないことなどを指摘した。
その上で、その解決方法は、「指導」ではなく「援助」を重視することにあると強調。学生の自発的な気づきを大切にするとともに、作業・グループワークなどを通じて、自ら考え、課題を考察する力を学生が身につけられるようにしていきたいと、今後の取り組みへの抱負を語った。
NCA養成講座は、従業員の能力開発を支援しようという企業の動きや、個人のキャリア開発への意識の高まりに応えるために、2001年10月に設置されたもので、社会・労働事情や企業内の人事制度などに精通した、高度なキャリア・アドバイザーの養成を目的としている。第6期を終了してのNCA登録者は231名にのぼり、社内外のさまざまな場で活躍している。
NCA養成講座は、4カ月にわたる通信講座と、5日間のスクーリング(土日コースと連続コースの2コース)からなっている。
スクーリング最終日に実施する修了認定試験に合格し、日本経団連キャリア開発センターに登録後、NCAとして活動することとなる。