日本経団連は16日、東京・大手町の経団連会館で海洋開発推進委員会(武井俊文委員長)を開催、海洋研究開発機構地球深部探査センター長の平朝彦氏を招いて、「海底地球探査の新展開」と題する講演を聴取した。
講演の中で平氏は、政府が現在、その策定に向けて本格的な検討を進めている、2006年度から5年間の「第3期科学技術基本計画」に言及。現行の科学技術基本計画では、ITやバイオ、環境、ナノテク・材料の4分野に対する重点的な取り組みが行われてきたが、第3期基本計画では、これらに加え、国の繁栄のために不可欠な重要基幹技術についても、重点的に取り組む必要があると指摘し、その一環として海洋科学技術に対しても、重点的な資源配分を行うべきタイミングにあると述べた。
すでに第3期基本計画に向けた文部科学省の科学技術・学術審議会における検討では、海洋関連分野である「地球規模総合観測システム」と「日本周辺海底地球地形地質資源探査システム」の2つが、国家の重要基幹技術の候補として取り上げられている。このうち「地球規模総合観測システム」について平氏は、地球温暖化や地球の環境変動を地球規模で観測することを目的に、米国が中心になって進めていると説明。日本としても、国際協力の一環として、一層積極的に取り組んでいかねばならない事項であると語った。
また、「日本周辺海底地球地形地質資源探査システム」について平氏は、日本の国益に直結する大陸棚調査や、東シナ海の海洋権益を巡る問題に対応するために必須の事業であると同時に、スマトラ島沖地震・津波災害などによって、海底観測の重要性が国際的に強く認識されていることを挙げ、科学や資源開発だけでなく、防災や国土管理、環境監視、安全保障などの観点から、国の基幹技術として強力に推進する必要があると強調。この「日本周辺海底地球地形地質資源探査システム」が、(1)まもなく完成予定の地球深部探査船「ちきゅう」を中心とする深海掘削 (2)自立型の潜水艇による海底地形・地質の調査 (3)海中ロボットによる資源探査――の3つによって構成されていることを説明した上で、これらの技術開発を個別に行うのではなく、総合的に組み合わせた観測システムを構築し、地球変動の観測・解明を進めて、今後のわが国の重要な基幹産業の創出へとつなげていくことが重要であるとの考えを示した。
このうち、深海掘削に関連して平氏は、今年の夏に完工後、海洋研究開発機構において試験運用が開始される予定の地球深部探査船「ちきゅう」について詳細に説明。同機構では、世界最先端の深海掘削船である「ちきゅう」を使って、海底下7000メートルのマントルの領域に至る深海の地形や地質の調査、資源探査を行い、そこから採取されたデータ・試料の分析によって、生命の起源や地球環境の変動、地震の発生メカニズムの解明などに広く貢献していく予定であることを紹介した。