日本経団連タイムス No.2752 (2005年1月20日)

「福祉から仕事へ」の考え方が原則に/オランダ、ドイツの障害者雇用事情視察報告

−日本以上に重い雇用義務/企業への支援は今後の課題


高齢・障害者雇用支援機構主催、日本経団連協力による「2004年海外障害者雇用事情視察」が、昨年11月3日から12日の日程で実施された。訪問先はオランダとドイツの2カ国で、障害者雇用をテーマにヒアリングや意見交換等を行った。以下、両国の障害者雇用の概要を紹介する。

【オランダ】

オランダでは、日本の厚生労働省にあたるオランダ社会雇用省とハーグ市の管轄下で障害者に対する職業訓練を行っているハーグ・グループを訪問した。オランダ社会雇用省では、障害者施策がこの10年で変化し、「手当よりも仕事」がキーワードになっている。98年に施行されたリインテグレイション法は、障害者の職場復帰の手段を定めており、(1)企業で障害者を雇用する場合の保険料控除(最大3年間) (2)施設整備等に対する助成 (3)職場に障害者を試験的に配置し、判断期間を設ける仕組み――などを設けている。重要な障害者施策としてはこの他に「社会労働施設」があり、これは障害者が、保護された環境で就労できるようにする施設である。

続いて訪問したハーグ・グループは、前記の「社会労働施設」にあたり、ハーグ市の管轄下にある。障害者を企業に職場復帰させるために、職業訓練を行っている。予算の3割程度が製造やサービス等の事業収入で、残りは補助金で運営されており、事業収入をいかに増やすかが今後の課題となっている。施設内では、公園用の大型ベンチやコレクターズアイテムとして人気があるというトラックのプラモデル、色鮮やかな椅子やソファー、大人2人が横に並んで乗る観光地用の小型スクーターなどが製作されている。施設担当者は、「障害者施設で作られる製品という固定観念を覆す高付加価値商品を作っていることを是非知ってほしい」と語った。

【ドイツ】

ドイツでは、ドイツ連邦保健社会省や障害者の職業訓練・作業施設であるCBA、ワークスタット・プロノバ、自動車メーカーのフォード社を訪問した。ドイツでは障害者の雇用促進施策として、(1)企業に対する障害者雇用義務 (2)義務が果たせないときの納付金の支払い――を法律で規定。従業員20人以上の企業は5%の障害者雇用義務があり、雇用率未達成の場合は達成状況により異なる負担金が徴収される。ドイツ連邦保健社会省では、一般企業での受け入れが難しい障害者のために、「統合企業」(日本の重度障害者多数雇用企業に似たもの)を2000年に設置し、より重度の障害者用の施設も国が運営している。

CBAは85年に発足し、第1の就業場所(一般雇用)に入れない人のために第2の就業場所として作られた。種別では「統合企業」に近く、清掃作業やレストラン・カフェ経営を行っている。

ワークスタット・プロノバは精神障害者を専門に受け入れる職業訓練施設で、予算はミュンヘン市がほぼ拠出。訓練内容は、家具やおもちゃの製作、建物内の大工仕事、修復などである。1年契約で訓練生を受け入れるが、プロノバを出た後、3分の1が一般雇用へ移行、3分の1は職安で訓練を受講するが、残りはクリニックに戻ってしまうとのことである。

フォード社では、障害者を主に工場で雇用しており、70のカテゴリーにわたり、仕事で要求される作業と本人が行える作業のマッチングを行うシステムを策定。さらに、本人・上司・医者・労使協議会・人事部からなるチームを設け、適切な職場配置とその後のフォローを行っている。

視察の結果、両国共通の障害者施策として「福祉から仕事へ」という考え方が原則になってきていることを感じた。オランダ・ドイツともに、企業に対し、日本以上に重い雇用義務を課しているが、実際に雇用する企業に対する支援はこれからの課題であるように思われる。一方、重度障害者の就業施設が、補助金を受けて障害者の働く場所を提供しながらも、経営感覚を磨き、事業拡大や高付加価値の商品作りをめざす姿勢は、日本にとっても参考となる。

【労働政策本部雇用・労務管理担当】
Copyright © Nippon Keidanren