日本経団連の新産業・新事業委員会は12日、経団連会館で企画部会(鳴戸道郎部会長)を開催し、コロンビア大学ビジネススクールのリタ・マグラス准教授を迎え、ITバブル崩壊後の米国ベンチャー事情と日本企業への示唆について説明を聴くとともに、意見交換を行った。
マグラス准教授は、米国のベンチャーの状況について、復興・再建の途上にあると説明。ベンチャーキャピタルは、規模の縮小や戦略的提携の促進、不採算事業のカットを行い、企業はリスクを最小限にするため、多角化で広げた関連事業をコア事業に関連するものに絞り込み、戦略的なスリム化を行っていると語った。
さらに、バブル後に起こった変化について、(1)不祥事を受け、投資家の企業統治への関心が高まったこと (2)株式市場から個人投資家などのアマチュアが撤退したことで、株価の上下によって利益を得るモメンタム投資家の影響力が強くなったこと (3)企業のマーケットでの地位が加速度的に変化するようになったこと――を挙げ、「経営者を取り巻く環境がより厳しくなった」と述べた。今後の企業経営については、戦略的提携の推進や研究開発の自前主義からの脱却、社外のイノベーションの取り込みと自社のブランド力やマーケティング力との組み合わせが大変重要になると指摘。また、投資を行う際に、新規のベンチャー企業には数多くの不確定要因があり、全てが成功することはないということを前提に、投資先ベンチャーのポートフォリオを組み込むことが必要とした上で、「ポートフォリオ全体における失敗率ではなく、失敗のコストにいくらかかるのかに着目すべき」との考えを述べた。一方、米国では失敗の経験を持つ者への再投資が行われるが、ヨーロッパや日本ではそうした気運に乏しいとの認識も示した。
さらに、マグラス准教授は、ポートフォリオを組む際に、(1)市場の上でも技術の上でも不確実性の低いコア事業のうち、技術の標準化がなされれば伸びるというような領域で少額の投資を行うというオプション (2)市場が不確実な領域での実験的な投資を行うというオプション (3)市場、技術ともに不確実だが長期的な魅力からあえて投資を行うオプション――をうまく組み合わせることが必要と強調した。
また、日本企業の投資傾向について、「戦略的な取り組みが得意ではなく、他社に追随する形で市場参入することなども多かった」と指摘するとともに、「新たにベンチャービジネスを立ち上げるというのは既存の取り組みとは違うスキルが必要」と示唆した。
日本経団連が23日から訪米調査団を派遣することについては、他社の選んだ手段を学ぶなど、有益な参考事例を多く調査することによって大きなチャンスを得ることになるだろうと述べ、調査団の成果に期待感を示した。
講演聴取後には、ビジネススクールの学生の変化やストック・オプションの利用のあり方、日本の強みといった課題について活発な意見交換を行った。