厚生労働省の中央最低賃金審議会(会長=渡辺章・東京経済大学教授)は7月26日、2004年度の地域別最低賃金額改定の目安について、「現行水準の維持を基本として引き上げ額の目安は示さないことが適当」との公益委員見解を、坂口力厚生労働大臣に答申した。
同審議会は5月14日、厚生労働大臣の諮問を受け、目安に関する小委員会(目安小委員会)を設置し、3回にわたって地域別最低賃金額改定の目安について審議を行った。
目安審議にあたって日本経団連は、同審議会の使用者側委員に推薦している杉山幸一・三菱重工業特別顧問らを中心に対応を協議したほか、労使関係委員会(加藤丈夫共同委員長、鈴木正一郎共同委員長)、地方経営者協会の最低賃金担当者が参加する「最低賃金対策専門委員会」、全国の地方最低賃金審議会の全使用者側委員が参集する「最低賃金審議会使用者側委員全国連絡会議」などを開催、今年度の目安小委員会での使用者側委員の対応や審議結果を協議・報告するなど対応した。
審議において使用者側は、(1)経済情勢に明るさが見えはじめているものの、地域や業種、企業規模等で差が大きく、多くの地域や中小・零細企業ではより厳しい状況が続いている (2)為替や金利の動向など先行き不透明な要素も多く、悪化しているところにも目を向けるべきである (3)国内企業物価が上昇傾向を示している反面、消費者物価が引き続き下落傾向にあるのは、原材料価格の上昇を企業が生産性向上などで最終財への価格転嫁を回避する努力をしていることを意味している (4)日本経団連調査の中小企業の賃上げ率は1.44%で昨年とほぼ横ばい、大手企業の初任給も伸び率が3年連続で0.0%となっている (5)厚生労働省の賃金改定状況調査で、凍結・引き下げ事業所が約6割に達している上、賃金上昇率がマイナスであった――ことなどを理由に、今年度の目安は、最低賃金の影響が特に大きい中小・零細企業の存続と雇用維持を第一に、据え置きに留まらず、引き下げの目安を出すことも念頭において議論する必要があると主張した。
一方、労働者側は、景気や企業業績の回復が明確になってきていることや、現在の最低賃金額が若年単身労働者の必要最低生活費やパート・アルバイト賃金、初任給賃金と比べて低いことなどを挙げ、明確な賃金水準の改善に寄与する目安提示が必要であると主張。
長時間審議したが労使の意見の隔たりは大きく、双方合意の目安を定めるには至らなかったため、目安小委員会は「現行水準の維持を基本として引き上げ額の目安は示さないことが適当」とする公益委員見解を、地方最低賃金審議会に提示するよう中央最低賃金審議会に報告することとした。
目安答申を踏まえ、各地方最低賃金審議会は、地域の経済実態を考慮しつつ8月中には改定審議を終了、それを受けて、今年度の地域別最低賃金が決定する。
地域別最低賃金は、都道府県ごとに設定、全労働者とその使用者に適用される。その金額は、中央最低賃金審議会が毎年示す目安を参考に、地方最低賃金審議会が地域の実情に合った金額改定を審議し、その答申を尊重して各都道府県労働局長が決定している。