日本経団連タイムス No.2731 (2004年7月22日)

日本経団連・国の基本問題検討委員会、第1回会合開く

−奥田会長「検討の好機」を強調


日本経団連(奥田碩会長)は15日、都内のホテルで「国の基本問題検討委員会」(三木繁光委員長)の第1回会合を開催した。会合では、神戸大学の五百旗頭真教授から、「日本の新たな国家目標と国際的役割」と題する講演を聴講したほか、同委員会の下部組織として総合企画部会(内藤久夫部会長)の設置や、今後の検討スケジュールなどを了承した。

会合の冒頭、委員長を務める三木副会長は、「国の基本的な重要課題を体系的に整理し、国益、国家戦略の観点から検討を進めたい」とあいさつ。
続いて奥田会長は、日本経団連がこれまで、企業を取り巻く制度や労使問題を中心に活動を行い、多くの制度改正が行われてきたとする一方で、長年にわたり解決が図られない課題や弥縫策で対応された例も多いと指摘。そこで、同委員会については、「国家の基本的な枠組みや新たな国家像に関し、活発な議論をお願いしたい」と述べるとともに、景気に明るさが見え始め、政治的にも安定したこの時期が、国の基本問題を検討する好機であることを強調した。

「日本の新たな国家目標と国際的役割」/五百旗頭・神戸大学教授が講演

その後、「日本の新たな国家目標と国際的役割」をテーマに、五百旗頭教授が講演した。

五百旗頭教授はまず、日本が明治時代初期から、近代的で豊かな国家構想を持っていたとした上で(1)福沢諭吉から続く、個の確立・学問・シビルソサエティなどの「民」の自立の考え方 (2)坂本竜馬から続く、通商国家の確立に向けた考え方 (3)大久保利通から戦後に続く、近代国家の構築を掲げる考え方 (4)山県有朋より続く、官僚制国家の構築をめざす考え方 (5)西郷隆盛より続く、“日本人の魂=日本人のアイデンティティ”を尊重する考え方――が明治期に生まれ、第2次世界大戦終了までの間、日本の国家構想として思想的に大きな影響を及ぼしてきたと指摘。

また、戦後〜1960年安保までは、戦争の反省から、平和と民主主義が国家目標の中心に据えられ、一時期、鳩山一郎や岸信介に代表される、自主自尊・自立を主眼にした伝統的国家路線の影響を受けつつも、その後の経済成長期には、基本的に吉田茂路線の流れを踏襲し、日米安全保障体制の下、自主と自立を一定程度犠牲にして、安全と経済的な繁栄を確保することを国家目標としてきたと概説した。
続いて、80年代には、高付加価値の製品で世界を席巻するものづくり国家として、日本は世界に台頭することで、真の意味で「安全と繁栄」を達成したかに見えたが、「安全と繁栄」に代わる新たな国家目標を定義できず、バブル崩壊によるつまずきへと繋がったと述べた。

さらに五百旗頭教授は、「今年に入って、ようやく経済も再浮上し、安全と繁栄という目標を達成したかに思う」とした上で、日本の国家目標の再定義が求められていると指摘。
考え得る国家目標としては、社会が多元化して国家だけでは一元的に社会を統治していくことが困難になりつつある中、「民の充実と自立」が必要であることや、これまで消極的であった安全保障に対して、例えば国連などの国際安全保障への貢献、米国など対外的な同盟関係の拡充、国内でのテロや自然災害等の危機・脅威に対する「自助努力」など、一定の貢献を果たすために国際的役割の再定義が必要であるとの考えを示した。

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日本は戦後、現行憲法の下で目覚ましい経済発展を遂げ、短期間で先進国への仲間入りを果たし、国際社会における存在感を大きく高めた。一方で、少子・高齢化や世界経済のボーダーレス化、国際テロ活動の頻発、日本に対する国際的な期待の高まりなど、内外のさまざまな変化に伴い、従来の国の基本的枠組みが、十分機能しているとは言えなくなりつつある。
そこで、日本経団連は今年5月の第3回定時総会で「国の基本問題検討委員会」を設置し、安全保障・外交、国・地方自治体の関係、科学技術・教育など、国の基本的な重要課題について検討を進めることとした。今後、同委員会は、下部組織として設置した総合企画部会を中心に、各方面の有識者からヒアリングを行うとともに、部会での議論を重ね、12月から来年1月を目途に、論点整理、とりまとめを行う予定。

【環境・技術本部技術・エネルギー担当】
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