経営タイムス No.2727 (2004年6月24日)
日本経団連は14日、「日本法令の外国語訳化の推進を求める」と題する意見書をとりまとめ発表した。同意見書は、経済社会のグローバル化が進展する中、国際取引の円滑化や対日投資の促進などのためには、日本の法令全般にわたる信頼性のある外国語訳の体系的整備が必要であると指摘。政府に対して、指針となる標準づくりなどによって法令の外国語訳の体系的整備を行い、広く国際社会に発信していくことを求めている。
日本経団連が今回の意見書をとりまとめた背景には、(1)司法制度改革の重要な柱として「司法の国際化」が進められ、弁護士の国際化への対応強化や途上国への法整備支援等が推進されていること (2)経済社会のグローバル化進展によって国境を越えた商取引や人材の交流が盛んになり、国際的法律案件が急増していること (3)特にインターネットの普及・商取引への活用により国際的法律案件急増の動きが加速していること――などがある。
一方、日本では、省庁や民間によって英訳された法令もあるが、基本用語の翻訳の標準化や外国語訳の体系的な整備は行われておらず、海外を含めて広く利用されている外国語訳法令は存在しないのが実情。日本法令の外国語訳を利用しようとすると、時間・費用をかけて外国語訳を探すか、自ら外国語訳を作成するという無駄が生じている上、利用する外国語訳の信頼性も欠如している。
こうした日本の実情は、先進諸国だけでなく、韓国などのアジア諸国と比較しても、極端に後れを取っている。国際社会の日本法令に対する認知度も低く、外資系企業、滞日外国人などの司法アクセスが損なわれているという問題も発生している。
そこで同意見書は、21世紀にふさわしい司法制度を確立する観点から、政府に対して、指針となる標準づくりなどを通じ、日本法令全般にわたる信頼性の高い外国語訳を体系的に整備し、利用者がアクセスしやすい形で公表し、広く国際社会に発信していくことを強く求めている。
日本法令の外国語訳化推進が必要である理由や具体的メリットは次のとおり。
企業の積極的な海外進出など、国際的な経済活動が進展する中で、企業は、国の内外を問わず、訴訟や契約上のリスクにさらされており、特許など知的財産権をめぐる紛争も増加の一途をたどっている。質が高く信頼性のある日本法令の外国語訳が存在すれば、国際取引に関するコミュニケーションの円滑化やトラブルの防止に資するとともに、紛争解決にあたって、日本法を準拠法とする途が拡がり、日本企業の安定的な活動を促すであろう。
現状では、海外企業等は、日本語以外で日本の法規制を正確に把握することが困難であり、対日投資の意欲が減衰させられている面がある。日本法令の外国語訳がないため、諸外国での日本法令研究・紹介が進まず、経済活動の基盤となる法制度に対する信頼感が高まらない、という問題もある。日本法令の優れた外国語訳が整備されれば、わが国の法制度の透明性が高まり、海外から日本法令、ひいては日本社会に対する理解も増進されよう。その結果、既に国内に所在する外資系企業や外国人はもちろんのこと、より多くの資本と優れた人材が惹きつけられ、対日投資の促進が期待できる。
発展途上国が経済発展を遂げるためには、経済活動の基盤となる法整備を早急に整備することが不可欠である。既にわが国は、アジア近隣諸国に対する法整備支援を積極的に展開しているが、こうした活動は、支援先国との連携関係を強化させ、わが国の国益にかなうのみならず、支援先国における円滑で安全な経済活動の基盤ともなる。日本法令の外国語訳の存在は、相互理解の飛躍的な増進など、法整備支援活動を支える重要なツールとなり得る。
また、法律の世界においても国際的なハーモナイゼーションが進んでおり、わが国から外国語訳の法令を積極的に発信することにより、グローバル・スタンダードの形成に対する貢献が可能となる。