経営タイムス No.2720 (2004年4月29日)
日本経団連は19日、「21世紀を生き抜く次世代のための提言〜『多様性』『競争』『評価』を基本にさらなる改革の推進を〜」を発表した。同提言は、IT化やグローバル化が進展する中で、日本が国際競争に勝ち抜いていくためには、「ものごとの本質をつかみ、課題を設定し、自ら行動することによって問題を解決していける人材」の育成が急務と指摘。その上で、教育を国家戦略の重要な柱として位置付け、大胆でスピード感ある改革の推進を求めるとともに、教育界と産業界が取り組むべき具体的な課題を提起している。同提言は、小泉首相はじめ政府・与党、関係方面に建議し、政策に反映されるようフォローアップを実施していくこととしている。
同提言では、産業界が教育界に対して、どのような人材を育成するよう期待しているかという点を明らかにするとともに、トップ層の育成に注力すべきとしている。また、こうした期待に反し、教育現場に危機感がなく、公教育への不信感につながっていると指摘し、塾通いの常態化の解消、均質性を重視した教育のあり方の見直しなどを訴えるとともに、「多様性」「競争」「評価」を基本に、制度改革に取り組むべきだと主張している。
同提言をとりまとめた教育問題委員会の委員長を務める樋口公啓副会長は、同日の記者発表で「教育改革は喫緊の課題。産業競争力にも影響し、産業界としても看過できない」と述べ、教育の質の向上に向けて、国・地域・家庭と産業界が一体となって積極的に関わっていくことの重要性を強調した。
同提言が指摘している教育界と産業界が取り組むべき具体的な課題は次のとおり。
在学中に学生自らが目標を立て、その達成に向け継続的に課題に取り組む意欲・行動力を養える機関に生まれ変わることを望む。
授業形式やカリキュラムの工夫、外部人材の登用などを行い、学生のやる気を引き出すとともに、成績の厳格化と卒業時の出口管理の徹底する。
教養教育の重要性を認識するとともに、専門知識を学ぶ動機づけを行うなど、学部教育の充実を図る。
大学の多様な取り組みを促すためにも、大学の多面的な評価が多様な主体によって実施されるよう、国は多様な評価主体の参画を奨励すべきである。
行政は、学生や学生の保護者にバウチャー(資金)を交付し、選択した教育機関にバウチャーを渡し必要な教育サービスを受けるという、バウチャー制度を導入するなど大学間の競争を促し、教育の質的向上を図る。
地方行政や各学校、教員の独創的な発意で学校・授業改革を進めることが必要である。
教育委員会は、意欲ある取り組みを行う学校や教育を支援し、人員・予算の加配をすべきである。また、教員の発意を促すべく、教員への「加点主義」による評価や「学びなおし」の機会提供を行う必要がある。さらに、各教育現場における先進的な取り組みの紹介・普及も重要である。
国は、教育委員会の立案機能を強化し、教育委員会を再編・広域化すべきである。さらに、教育委員会自らが地域の教育の方向性を決定できるよう、制度を根本的に改革する必要がある。また、学習指導要領のあり方についても、国は再検討すべきである。
学校に対する期待やニーズが多様化する中で、職場体験や奉仕活動の機会を地域から提供してもらうことや地域の人材に学級活動へ参画してもらうことなど、地域の資源・人材を積極的に活用すべきである。
親は教育の基本は家庭にあることを自覚し、子どもが通う学校の運営に建設的な形で関わり、協力する必要がある。
産業界は、カリキュラムの開発や社会人の講師派遣など、大学教育の質の向上とともに、インターンシップの積極受け入れなど職業観の醸成に協力すべきである。さらに、産業界が、教育界と社会との循環や連携強化を推進し、社員を講師として派遣し、学校教育の充実に協力することを奨励するとともに、人事評価や小集団活動など企業のノウハウを教育界に提供する。採用に関しては、多様な人材を広く受け入れるために、学校名不問の採用を実施する。また、採用試験の主旨・概要および方向性について積極的に公開し、産業界の期待する人材像を学生や大学関係者に明示する。