経営タイムス No.2718 (2004年4月15日)
日本経団連は14日、外国人受け入れ問題に関する提言を発表した。同提言は、日本の社会経済に活力を取り戻すためには、国民1人ひとりの“付加価値創造力”を高める必要があり、そのプロセスに外国人のもつ力を活用するとの「中間とりまとめ」の考え方を踏まえたもの。外国人の受け入れを実現するための「3原則」として、(1)質と量の両面で十分にコントロールされた秩序ある受け入れを行うこと (2)受け入れる外国人の人権と尊厳が擁護された受け入れであること (3)受け入れ側、送り出し側双方にとってメリットのある受け入れであること――を指摘。さらに、外国人の受け入れは、総人口減少の埋め合わせのためではないことを明記するとともに、具体的な提案を9つの分野に分けて整理している。
「日本企業における雇用契約、人事制度の改革」では、企業の人事制度の見直しや企業内の意識改革の必要性などを強調している。
「国と地方自治体が一体となった整合性ある施策の推進」では、外国人の受け入れを巡り、国の縦割り行政の弊害が強く出ていることを踏まえ、当面の対応として、内閣に「外国人受け入れ本部」、内閣府に「特命担当大臣」を設置するとともに、将来的には、「外国人受け入れに関する基本法」の制定、「外国人庁」の創設の検討を求めている。さらに、企業が外国人の雇い入れ時と離職時に、外国人個々の情報を行政に報告するなどの責務を定めるなど、新しい就労管理の仕組みの導入を提案している。
「専門的・技術的分野における受け入れの円滑化」では、外国にある本店や支店、事業所等で働いている外国人を日本で業務に従事させる「企業内転勤」に関して、特にグローバル経営推進の観点から企業のニーズの高いことを受け、業務経験が1年未満の外国人であっても受け入れができるようにすべきと主張している。
「留学生の質的向上と日本国内における就職の促進」では、「10万人計画」(1983年に中曽根内閣が決定)を昨年達成したことから、留学生の質を重視した施策を求めている。
「将来的に労働力の不足が予想される分野での受け入れ」は、「中間とりまとめ」にはなかった項目。タイやフィリピンから、人材受け入れに対する強い要望が出されている看護・介護等の分野は、少子・高齢化に伴い、女性や高齢者を活用しても日本人だけでは供給不足になるとの予想から、秩序ある受け入れのための具体的なシステムを提案している。
「外国人研修・技能実習制度の改善」については、「中間とりまとめ」で、地域の地場産業などの実態を踏まえ、同制度の活用を提起したが、その運用を巡って批判があることから、受け入れ機関の不正行為に対する処分内容の強化や研修・技能実習生の早期帰国制度の導入など、制度の改善に重点を置くよう訴えている。
「外国人の生活環境の整備」では、多文化共生を促す地域の役割として、地域において外国人に対する相談窓口の開設や日本語学習の機会提供などを提案。また、社会保障制度の改善・充実のために、政府に対し多くの国々と社会保障協定を締結するとともに、公的年金と医療保険の加入を巡る問題を解決するよう要望している。
「日系人の入国、就労に伴う課題の解決」では、今後、入国を希望する日系人に対して、日本で安定的に職が得られる者に限って在留資格を与えるなどの制度改正を提案している。
「受け入れ施策と整合性の取れた不法滞在者・治安対策」では、不法滞在の取り締まり強化と同時に、在留特別許可などの合法化措置を積極的に活用するなど、治安対策と受け入れ施策との整合性を重視することをポイントとして挙げている。
◇ ◇ ◇日本経団連が昨年1月に発表した新ビジョン『活力と魅力溢れる日本をめざして』において、「多様性のダイナミズムによって日本の社会・経済に再び活力を取り戻す」という観点から、外国人も活躍できる環境の整備を提案した。
その後、産業問題委員会(香西昭夫委員長、齋藤宏共同委員長)と雇用委員会(大國昌彦委員長)にワーキンググループを設置し、企業関係者や関係省庁・地方自治体の担当者、大学関係者などから意見を聴取。昨年11月14日に「中間とりまとめ」を発表した。
外国人の受け入れ問題は、産業界はもちろん、地域の自治体や住民の日常生活と密接に結び付いた問題であることから、あえて「中間とりまとめ」を発表し、国民各層に広くパブリックコメントを求めた。その意見を反映してとりまとめたのが、今回の提言である。