経営タイムス No.2716 (2004年4月1日)
日本経団連は3月23日、東京・大手町の経団連会館で、企業の政治寄付と株主への対応に関する講演会を開催した。企業法務や税務訴訟、コーポレート・ガバナンスに詳しい鳥飼重和弁護士を講師に招いた同講演会には、日本経団連の会員企業等から約500名が参加。企業が政治寄付を行う際に留意すべき法的ポイントや株主への対応などについて、鳥飼弁護士が具体例や判例を引きながら解説を行った。
開会にあたって、政治・企業委員長を務める宮原賢次副会長があいさつ。そのなかで宮原副会長は、日本経団連が政策本位の政治の実現をめざし、政党の政策評価をベースとした政治寄付への関与を再開したことを説明するとともに、社会的責任の重要な社会貢献として、自発的に政治寄付を行うよう参加者に呼びかけた。
また、宮原副会長はこの講演会で、政治寄付についての法的側面や、株主への対応に関する具体的な事例を聴取することで、政治寄付への理解が一層深まるよう期待感を示した。
企業の政治寄付と株主への対応について講演した鳥飼弁護士はまず、政党政治における政治献金について、政党の正常な活動に不可欠であり、政治資金の源泉は国民による政治寄付であるとした上で、国民からの政治献金は十分ではなく、政党の政策立案・遂行能力の弱体化や、民間主導社会への移行に対する支障など悪影響があることを指摘、政治寄付の重要性を説いた。
次に、企業の政治寄付に関する法規制について概説。このうち、政治資金規正法による法規制として、(1)政党と政治資金団体以外への寄付の禁止 (2)会社の資本金または出資金額の区分による寄付総額の上限制限 (3)国から補助金や資本金等を受けている会社等の政治寄付の禁止 (4)3事業年度以上にわたり欠損を生じている会社の政治寄付の禁止 (5)外国法人による政治寄付の禁止――などがあることを紹介した。
その上で、政治献金に関する判例として、(1)八幡製鐵政治献金事件最高裁判決(1970年6月24日) (2)保険相互会社政治献金事件大阪地裁判決(2001年7月18日) (3)熊谷組政治献金事件福井地裁判決(2003年2月12日、名古屋高裁で審理中)――を例に挙げ、憲法や民法90条、公職選挙法199条、政治資金規正法22条の4第1項に違反するかどうかなどについて、論点を整理した。
それを踏まえて鳥飼弁護士は、広範な裁量が認められている企業の経営判断の範囲を画する要件として、(1)具体的法令違反がないこと (2)会社のための判断であること (3)判断の前提となった事実に不注意な誤りがないこと (4)判断内容・判断に至る過程に著しい不合理がないこと――を指摘し、「経営判断は誠意をもって、注意を払ってやっているかという姿勢や態度、説明が重要となる」との考えを示した。
その上で、日本経団連の政党の政策評価による自発的な政治寄付については、「日本経団連の評価に拘束されることなく、その評価を参考資料として、自由かつ自主的な経営判断をすることができる」と評価した。
さらに鳥飼弁護士は、政治寄付に認められる企業の裁量は、業務に関連する経営判断よりも狭いとした上で、(1)政治資金規正法や公職選挙法に違反しない (2)会社の社会的貢献の寄付と同じ考えである (3)会社の規模や財務状況、これまでの政治献金の実績、日本経団連の政党評価など具体的な判断の前提となる事実を十分認識する (4)判断の内容・判断に至る過程に合理性がある――ことなどが、政治寄付を行う際の自発的経営判断のポイントであり、判断事由を書面で明らかにしておくことの必要性を強調した。
◇ ◇ ◇鳥飼弁護士は5月中旬に、『寄附・政治寄附に関する実務〜株主総会及び株主代表訴訟を中心として』(商事法務社)と題する著書を刊行する予定。