経営タイムス No.2714 (2004年3月18日)
日本経団連(奥田碩会長)は12日、「経済連携の強化に向けた緊急提言―経済連携協定(EPA)を戦略的に推進するための具体的方策」を発表した。同提言は、モノの貿易や投資、ヒトの移動などEPAで実現すべき課題を挙げた上で、国内構造改革の推進と強力な推進体制の整備について記している。同日、記者会見を行った槙原稔副会長は、「EPAの締結を通じて、東アジア諸国など、日本にとって重要な国・地域との経済連携を強化することができる」と述べ、官邸主導の体制整備によるEPAの推進が日本の喫緊の課題であることを強調した。同提言の概要は次のとおり。
EPAは、実質的にすべての貿易自由化を行うWTO協定と整合的でなければならない。関税撤廃による貿易自由化に強力に取り組むとともに、通関手続きの透明性確保と簡素化・迅速化等による貿易円滑化を図る必要がある。EPA特恵を享受し得る原産地規則については、公平性、中立性等を確保すべきである。ASEAN諸国との間では、各国との原産地規則間に一貫性を確保し、将来の日・ASEAN累積原産ルールを視野に入れ、検討する必要がある。
投資受け入れ国としての魅力向上のため、先進的投資ルール整備(投資許可段階での内国民待遇・最恵国待遇の原則付与、パフォーマンス要求の原則禁止等の実現)や法制度等の各種インフラ充実が極めて重要である。わが国への一層の投資促進のため、各種規制改革等を通じ事業機会創出を図るとともに、高コスト構造を是正し、市場としての魅力向上に努めることも重要である。
経済社会の活性化や企業のグローバルな事業展開円滑化、互恵的EPA実現等のため、多様な職種の人材を国籍を問わず積極的に受け入れる必要がある。そのため、「技術」「人文知識・国際業務」等の産業人材については、資格要件緩和、在留年数延長を行うべきである。看護・介護分野の人材の受け入れを円滑化すべく、就労内容・期間の制限を撤廃するとともに、相手国での日本語教育の充実や養成学校・講座の設置、日本での研修・実習体制等の整備を図るべきである。
その際には治安や雇用情勢などにも配慮し、秩序ある外国人受け入れに向けた体制整備を行うべきである。
また、海外支店への日本人社員の派遣などに係るビザや就労許可に関し、厳格な要件緩和とともに、手続きの透明性確保と簡素化・迅速化を求めたい。
WTOと整合的なものである以上、農業分野全体を除外することはあり得ない。担い手の高齢化および後継者難、農地の荒廃等に対応する観点からも、足腰の強い農業確立のための構造改革を進めるべきである。また、差別化、高付加価値化と低コスト化を通じて、国際競争力強化を図っていくことが求められる。そのため、農業界の取り組んでいる構造改革を、国民全体で支援する必要がある。具体的には、(1)農地を農地として有効利用するための地域農業の再編と耕作放棄地対策 (2)多様な担い手を確保・育成するための、農業生産法人の形態や設立要件の緩和 (3)一定の農業経営に対する直接支払いなど新たな支援策の導入(財源は既存の農業予算の組み替えが基本)――が必要である。同時に、わが国の農業や農産物貿易の現状、国内構造改革への取り組み状況等を内外に効果的に発信し、相互の国内事情の理解促進を図るべきである。WTOルールにおいても例外措置等が許容されている。
わが国が世界の中で果たすべき役割を認識し、国内の構造改革を推進しつつ、総合的EPA戦略を策定・推進するには、内閣総理大臣のリーダーシップが不可欠である。とりわけ、東アジアの主要諸国とのEPA推進を緊急の課題として一体的・集中的に取り組むためには、官邸主導の体制を一刻も早く整備すべきである。例えば、内閣に、時限的組織として、内閣総理大臣を本部長、経済連携特命担当大臣(仮称)を本部長代理とする「経済連携戦略本部」(仮称)を設置し、内閣総理大臣主導による対外交渉の一本化を図るべきである。