経営タイムス No.2698 (2003年11月6日)
日本経団連(奥田碩会長)は10月21日、東京・大手町の経団連会館で、第2回企業倫理トップセミナーを開催した。同セミナーには、会員企業代表者や企業行動委員会委員ら約400名が出席。講演やパネルディスカッションを通じて、企業倫理確立のために企業トップが果たすべき役割について探った。
開会あいさつで奥田会長は、相次ぐ企業不祥事を受けて、昨年10月に企業行動憲章を改定したものの、「依然として企業の社会的信頼を損なうような事件が続発していることは残念だ」と指摘。日本経団連は今年から毎年10月を「企業倫理月間」とし、会員企業に社内体制の総点検を促すとともに、それを支援する催しを集中的に開催していくと、同セミナー開催の経緯と意義を説明した。その上で奥田会長は、「経営トップの負うべき責任はますます重く、多様になっている。企業倫理の確立にこれまで以上に尽力していただきたい」と呼びかけた。
次に、日比谷パーク法律事務所代表の久保利英明弁護士が「企業不祥事の変質と企業経営の課題」をテーマに講演を行った。久保利氏はまず、バブル期にはパワフルな企業トップが起こす大きな犯罪が多かったが、バブル崩壊以後は、企業不祥事の性格が現場の怠慢・無責任によるものや過剰な業績至上主義に基づく担当者の違法行為に変わってきたと指摘。
また、最近の企業不祥事は、(1)内部告発による事件発覚 (2)企業トップだけが事件に関する情報を知らないという状況 (3)不祥事を起こした企業の親会社や関連会社への影響波及 (4)マーケットによる当該ブランド商品排斥の迅速化 (5)現場が起こした事件でも責任は企業トップが取らざるを得ないという決着の仕方――などが特徴であると説明した。
さらに現場が起こす事件が増えた原因としては、権限委譲と報告義務のアンバランスを挙げるとともに、現場の起こした事件の責任を企業トップが取るのは、「企業トップが事件の未然防止のための内部統制制度構築を怠ったことについて責任を問われるからである」との見解を示した。
その上で久保利氏は、単なる「法の順守」にとどまらず、その企業がいっさい指弾されることがないという意味での企業コンプライアンスを確立することの必要性を強調。そのために企業トップがすべきこととして、(1)自社に合わせた手作りのコンプライアンスプログラム(実践計画)を策定・実施する (2)コンプライアンスマニュアル(手引書)の周知徹底を図り、守らない者には必ず罰則を適用する (3)強力な内部統制システムを確立し、目の行き届かない部署をなくす (4)企業トップへのヘルプラインを構築するなど、トップの情報過疎状態を解消するとともに、内部通報者を徹底して守る――の4点を挙げた。
続いて、パネルディスカッションに移り、企業行動委員長でもある武田國男副会長の司会で、久保利氏、早房長治・地球市民ジャーナリスト工房代表、松崎昭雄・森永製菓相談役が、最近の企業不祥事をどう受け止め、企業は取り組むべきかなどについて、論議した。
この中で早房氏は、企業の不祥事防止への取り組みについて (1)細部にわたってきちんとした内部統制基準を作ること (2)馴れ合いを排して、基準を守らない者は必ず罰し、一罰百戒の効果をあげること (3)人事をはじめ企業組織全体の透明性を高めること――が求められると指摘した。
また松崎氏は、「不祥事を起こさない覚悟を持つという企業トップのあり方が一番重要である」として、具体的には、法律や社会常識に反しない経営を導く理念、経営内容の公表、消費者第一主義、長期的なものの考え方――の必要性を経営トップがあらゆる部署に伝えて回ることや、経営トップが会社の細かい部分まで知っていることを、人事を積極的に用いるなどしてアピールすることが必要だと語った。
久保利氏は、常に企業の持つミッションに照らして企業は行動すべきとした上で、コンプライアンスを組織的にしっかり確立していれば、違反者が出ても「例外」と見なされ、「企業ぐるみ」の不祥事とは受け取られなくなる可能性が出てくるとの見方を示した。
閉会あいさつで、大歳卓麻・企業行動委員会共同委員長は、「今や企業トップは、『知らなかった』では済まされない立場にある。企業トップは社内の企業倫理確立のみならず、関連企業、協力企業にもそれを浸透させるとともに、企業の透明性を高めなければならない」と締めくくった。