[ 日本経団連 ] [ 機関誌/出版物 ] [ 経営タイムス ]

経営タイムス No.2681 (2003年6月26日)

第91回ILO総会閉幕

−船員の身分証明書条約改正


ジュネーブで3日から開催されていた第91回ILO総会が、19日閉幕した。今回の総会では、テロ対策の強化と船員の出入国手続きの簡素化を盛り込んで、船員の身分証明書条約(108号)が改正された。各委員会・議題の主な討議結果は次のとおり。

■財政委員会

2004〜05年のILO予算として、総額5億2960万米ドルが可決された。日本の分担率は、約19.2%となった。

■条約・勧告適用委員会

ミャンマーの強制労働に関する特別セッションがもたれ、昨今の政治情勢(スーチー女史の拘束)を憂慮し、ミャンマー政府に強制労働廃止に向けての行動計画実現のため、あらゆる措置を迅速にとるよう求める結論を採択した。

■第4議題「人材育成のための訓練及び開発」(第1次討議)

1975年の人的資源開発勧告を、今日の状況に適した実用的な文書に改訂する目的で行われた討議の結果、人材開発における個々人の責任、資格認証の枠組み、教育訓練における国際協力などを内容とする勧告案をまとめた。
ここで争点となったのが「権利」の問題で、使用者側は、教育は万人の権利とするものの、職業訓練に対する権利は対象を労働者に限定すると明確な区別を主張。労働側は、職業訓練も万人の権利として認めるべきと主張し、開発途上国など多くの政府の支持を得た。
結局、教育と訓練は万人の権利との文言が勧告案に盛り込まれた。使用者側は、来年の第2次討議において巻き返しを図る。

■第5議題「雇用関係の範囲」(一般討議)

同委員会では、労働市場の変化に伴い、労働やサービスの提供者と、それを受ける者との関係を明確にしなければ、保護に欠ける労働者が出てくるという問題意識から、契約関係がどこまで雇用関係に近づけられるか討議が行われた。
使用者側は、加盟各国の労働市場への十分な配慮の必要、「偽装」や「あいまいな」雇用関係を定義することの困難から条約や勧告などの作成には反対であると主張し、労働側と激しく対立した。各国政府が労働側を支持したため、使用者側は厳しい選択を迫られた。委員会は、偽装雇用関係に焦点を合わせた勧告の制定を将来のILO総会議題にするべきとの結論を出した。

■第6議題「労働安全衛生におけるILOの基準関連活動」(一般討議)

同委員会では、数ある安全衛生関連のILO条約・勧告、実施綱領などを、「統合的アプローチ」によって見直し、今後のILO活動の方向性についての検討を行った。建設的な検討の結果、各国ごとの労働安全衛生計画の作成、ILOによる技術支援・協力、情報提供、他の国際機関(WHO等)との連携などの強化の必要性を強調する報告書をまとめた。既存の条約が技術的で詳細にわたるため批准数が少ないという問題があることに鑑み、労働安全衛生分野を包括的に促進するための枠組み文書を今後作成することで、政労使の大筋の合意ができた。
今年11月のILO理事会で、改めてこの問題を2005年総会の議題として取り上げるかどうかが決定される予定である。

■第7議題「船員の身分証明の保護の改善」(1回討議)

海事分野でのテロ対策を強化するため、「船員の身分証明書条約」(108号)改正の審議が行われた。従来の身分証明書に指紋や眼の虹彩などのバイオメトリックス(生物測定)情報を導入して精度の高い信頼の置けるものにするとともに、証明書を保持する船員には、一時上陸や乗下船のための出入国手続きの簡易化を図ろうとする改正条約案をまとめた。
個人の身体的情報をパスポートに先駆けて船員にのみ導入することには、プライバシーの問題や、コスト面や技術的な問題がある。また、米国やEU諸国のようにテロ対策を強化している国が、果たして手続きの簡易化に応じるかなどの問題があるものの、改正条約案はバイオメトリックス情報の導入を接点として、テロ対策の強化と手続きの簡易化のバランスを、微妙に取る内容となった。
条約案は、本会議において賛成392票、反対なし、棄権20票で採択された。テロ対策の緊急性のため、同条約は2カ国が批准後、異例の6カ月で発効することとなっている。


日本語のトップページ