経営タイムス No.2665 (2003年2月27日)
日本経済団体連合会(日本経団連、奥田碩会長)、中部経済連合会(中経連、太田宏次会長)、東海商工会議所連合会(磯村巌会長)共催による東海地方経済懇談会が21日、愛知県名古屋市の名古屋観光ホテルで開催された。懇談会には、3団体の首脳はじめ会員150名が参加。「活力と魅力溢れる日本の実現に向けて」を基本テーマに、IT革命や社会保障制度改革、教育問題、観光産業振興などについて活動報告や意見交換が行われた。席上、奥田会長は、「消費税問題をテコに、さまざまな課題を浮き彫りにし、国民的議論を盛り上げたい」との考えを示した。
中経連の太田会長は開会あいさつで、わが国の経済情勢にふれ、「深刻なデフレ不況から社会全体に先行きの不透明感・閉塞感が漂っている」とした上で、「小泉内閣の構造改革は正念場にある」と指摘。この難局を乗り切るため、「小泉総理の強力なリーダーシップの発揮を期待する。雇用のセーフティネット構築や歳出・税制・金融・規制の4改革を確実かつ迅速に実行してほしい」と語った。
加えて、経済・産業再生に向けた中部経済界の課題として「高度な新技術・産業の創出」を挙げ、中経連では「ベンチャービジネス支援センター」を立ち上げ、ベンチャーの芽を育むための支援活動を積極的に展開していると紹介した。
続いて、奥田会長は、当面の景気情勢について太田会長同様に厳しい認識を示し、デフレ克服やイラク・北朝鮮情勢など国内外にさまざまなリスク要因があることから、先行きは「まったく予断を許さない」と指摘した。
さらに、先月発表したビジョンについて、このビジョンがめざす「活力と魅力溢れる日本」とは、経済的な豊かさと精神的な豊かさのバランスのとれた国家である、と説明。その豊かさを実現するための課題として、(1)国民や企業の不安感の払拭 (2)新たな成長の源泉を見出すこと (3)これまでのような同質性や画一性を重視する社会から多様性の持つダイナミズムが発揮される社会への転換、の3つを挙げた。
このうち、多様性の持つダイナミズムが発揮される社会実現には、「各地域の特色ある発展のための枠組みづくりが鍵を握る」と強調。その枠組みについてビジョンでは、全国を5〜10の州に分け、広域的な地域行政を可能とする「州制」導入を提案していると加えた。
奥田会長はさらに、ビジョン発表後、さまざまな反響があったと報告。特に消費税について「賛同する意見がある一方、税率の引き上げだけに注目した反対論も見られる」と述べた。その上で、「消費税問題をテコに、わが国を取り巻く課題を浮き彫りにし、国民的な議論を大きく盛り上げていきたい」とした。
活動報告ではまず、日本経団連側から、「IT革命推進に向けた取り組み」について岸曉副会長が、日本経団連では各省庁・国・地方でバラバラでない、「一つの」効率的で質の高い電子政府の実現を強く要望してきたと説明。
これに加えて、世界規模のネット障害のような事態を念頭に置き、「重要なインフラである電子政府について厳格なセキュリティ対策を講じる必要がある」との考えを示した。
「社会保障制度改革への取り組み」については、西室泰三副会長が、医療・公的年金・企業年金制度問題を中心に説明。このうち、公的年金制度改革では、日本経団連として「高すぎると判断される給付水準を早く見直すとともに、消費税を活用して基礎年金の抜本的な改革を行うよう求めていきたい」との方針を語った。
「グローバル化時代に対応した教育基盤の整備」については、樋口公啓副会長が、ビジョンを基に「これからの教育は、真のリーダーの育成と一芸を持つ多彩な個人の育成をめざすべきである」と強調。そのためビジョンでは、教育の世界への健全な競争原理の導入や多様な教育サービスから個人が自由に選択できる仕組みが必要であることを提唱している、とした。
東海地方側からはまず、「東海経済の現状とモノづくりの強化」について、加藤千麿・名古屋商工会議所常議員が発言。加藤氏は、東海経済の現状を「マクロでは全国に比べ底堅い動きだが、中小企業では生き残りをかけた取り組みを続けている」と報告。
加えて、新技術開発の取り組みについて「中小企業単独での取り組みには限界がある。このため産学交流によるテクノフロンティア事業を進めている」と紹介した。
「中部の観光産業振興」については、中経連の木村操副会長が「2005年の中部国際空港開港と『愛・地球博』を機に観光を国際競争力のある産業に育成していくための提言をまとめた」と説明。同提言では、団体旅行から個人・グループ旅行への意識やニーズ変化への対応、観光産業自らの構造改革、観光行政の一元化などを提唱している。
自由討議では、東海地方側から社会保障制度改革や都市再生、首都機能移転問題などに関する意見が相次いだ。
具体的には、「現状の社会保障制度は硬直的で中小企業にとってかなりの負担である。税と保険をどう組み立てるのか将来ビジョンが必要」「都市再生を実現するには、財政・税制面の充実、各種規制緩和が不可欠」「首都機能移転は、究極の構造改革である。国家百年の計に立ち、実現させるべきだ」などの発言があった。
これらの意見に対し奥田会長は「首都機能移転問題は、賛否両論あるが、いずれにしろ国会で前向きに審議されることを期待する」などと総括した。