経営タイムス No.2658 (2003年1月1日)
あけましておめでとうございます。
みなさまには、すこやかに新年をむかえられたものと、心よりお慶び申し上げます。
昨年五月に発足いたしました日本経済団体連合会も、会員のみなさまの多大なるご支援により、なんとか無事に新しい年のはじめを迎えることができました。年頭にあたりまして、あらためて深く御礼申し上げます。
昨年を振り返ってみますと、日本経済はデフレが進行する中で低迷が続き、海外に目を転じましても、米国の株価下落やイラク問題など不安定要因が拡大し、総じて産業界にとっては厳しい一年であったと思います。
とりわけ昨年は、新団体発足直後から、企業全般に対する信頼を失墜しかねないような残念な不祥事が相次いで発覚いたしました。わが国にとどまらず、米国でも、大型の企業不祥事が続発し、企業の社会的責任のあり方について、根本から考え直すことを迫られた一年であったと思います。日本経団連でも、こうした状況をふまえ、「企業行動憲章」の改定を行うなど、経営道義・企業倫理の刷新と確立に向けて、一段と強力な取り組みを進めているところであります。
こうした中で、東京大学名誉教授の小柴昌俊さんがノーベル物理学賞を、島津製作所フェローの田中耕一さんがノーベル化学賞を相次いで受賞されたことは、わが国科学研究の水準の高さを世界に知らしめる快挙であり、国民に明るい希望をもたらしました。とりわけ民間企業の技術者である田中さんの受賞は、わが国の産業人すべてにとって誇らしく、励みとなるものであったと思います。長期にわたる低迷の中にあるとはいえ、わが国の底力は、まだまだ捨てたものではありません。むしろ、経済の停滞が続くその奥には、行き場のないエネルギーが蓄積され、開放されるのを待っているのではないでしょうか。
経済・社会が地球規模で大きく変動する中で、かつては有効であったわが国のさまざまな制度や慣行の多くが、今ではこうした底力、エネルギーの発揮を妨げていることは、すでに周知のとおりです。たとえば、産学連携のしくみを作り直し、活性化させることで、新しい技術を新しい産業につなげていくことが容易になるでしょう。あるいは、潜在的に大きな需要のある育児・教育、福祉、健康サービスや環境関連ビジネスなどの分野における民間に対する参入規制を抜本的に緩和することで、これらの産業で民間の活力を発揮させ、需要を顕在化させ、雇用を生み出していくことが可能になるでしょう。こうした取り組みを通じて、わが国に新たな力強い発展をもたらすことが、「構造改革」にほかなりません。今年こそはこうした「構造改革」の実行の年にしなければなりません。
そのための指針として、日本経団連は、新しいビジョンを作成しました。改革を断行するには、既得権や権限を守ろうとする勢力に抵抗を許さない、国民の総意が不可欠です。そのためには、大多数の国民の共感を得られるビジョンが必要です。新しいビジョンは、「多様性」と「共感・信頼」をベースに、個人の多様な生き方を尊重し、そのエネルギーを生かすことを提言しています。この新しいビジョンに、多くの国民の支持を得たいと念じております。
小泉内閣に対する高い支持率は、そのまま国民の改革への期待を示すものといえます。自ら率先して痛みを受け入れ、改革に取り組むことが、リーダーに課された使命です。
この決意を会員のみなさまと共有し、日本経団連が一丸となって改革に邁進する決意を申し上げて、新年のあいさつに代えさせていただきたいと思います。