税制委員会(委員長 森下洋一副会長)/2月13日
昨年末に小泉総理大臣が税制の抜本改革に取り組むことを表明し、既に政府税制調査会、経済財政諮問会議などで、議論が始まっている。そこで、経団連税制委員会では、抜本的な税制改革に向けた検討を深めるため、財務省財務総合政策研究所の森信茂樹次長からわが国税制の課題について説明をきいた。
小泉総理の指示により、シャウプ勧告以来の抜本的な税制改革の議論が始まる。改革について検討するにあたり、現在、わが国の税制が抱える課題を3つ指摘したい。第1は20世紀から残されている課題であり、課税ベースの縮小と税率引下げによる所得税の空洞化が進んでいることへの対応である。次に、21世紀に入っての新たな課題として、所得課税から消費課税への一層の転換と資本に対する効率的な課税の実現の二つがある。
国民所得に対する個人所得税の負担率を国際的に比較すると日本は7.2%と他の先進諸国に比べて低く、アメリカ(13.4%)のおよそ半分であり、付加価値税中心で所得税の依存度が低いフランス(8.7%)でさえも下回る。その原因は、近年の税制改正で、課税ベースを広げずに税率引下げを行ったことにある。
課税ベースをできるだけ広くした方が、同じ税収を得るための税率は下がり、労働に対するインセンティブを損なわない。日本はこの課税ベースが非常に狭い。試算によれば、アメリカでは全所得の53.2%が課税対象となるのに対し、日本は所得の27.4%しか課税対象になっていない。課税ベースを狭くしている最大の要素は、社会保障関係の所得控除である。この所得控除は今後の社会保障負担や給付の増大に伴いますます大きくなり、試算によると課税ベースは2025年時点で15.8%まで低下する。
課税ベースの見直しは、国民的な議論によって行っていく必要があるが、その切り口はいくつかある。
消費課税の利点は、貯蓄およびその裏腹の関係にある投資に課税しないため、資本の効率的な活用につながるということである。つまり消費課税へのシフトは経済の活性化に役立つ。また、消費課税は、ライフサイクルに対して中立的であり、世界的な潮流となっている。
付加価値課税(消費税)を中心にした税体系になれば、現在の所得課税に見られるような複雑な控除がなく、クロヨンなどの問題も生じない。ただし、公正な税制とするために、インボイス方式などの制度を整備しなければならない。
シャウプ勧告以来、包括的所得税が理想とされてきた。しかし、包括的所得税は、理論上はともかく、発生ベースで所得を包括的に把握するのは困難であり、実際に機能しているかどうか疑問である。先述したように、消費課税にシフトすれば多くの問題が片付くが、一挙に移行することは不可能である。
そこで、より現実的な選択として、全ての所得を勤労所得と資本所得とに分ける二元的所得税(dual income tax)に移行すべきだと考える。法人税率と資本に対する税率、勤労所得に係る最低税率は同一となる(図2参照)。
二元的所得税は既に北欧諸国で導入されている。日本の経済社会の実態に適合するよう、修正すべき点はあるが、資本投資を促進し、リスクテークを促すという観点からも、「日本型」二元的所得税の考え方に基づく所得税の再構築を提案したい。
(意見にわたる部分は、私見)
モデル世帯の租税等負担率(試算) |
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(全国:勤労者世帯、対年間収入比) |
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(備考) 「勤労者の男性が22歳から働き始め、28歳で26歳の女性と結婚、妻は専業主婦。夫29歳で長子、3年後に第二子が誕生。二人の子供は4年制大学まで進む。夫が51歳の時長子が大学を卒業、就職、第二子も3年後これに続く。夫60歳で定年退職し、再就職の後65歳で引退、年金生活に入る。夫は76歳で死亡し妻は82歳で死亡する。」と仮定したモデルに基づき給与収入に対する所得税負担、社会保険料負担、消費税負担の割合を試算。 平成5年11月政府税制調査会「今後の税制のあり方についての答申」付属資料。したがって税率等は当時のもの。 |