経団連くりっぷ No.44 (1996年11月28日)
独首相府主催 コール・ドイツ連邦首相との懇談会/11月2日
日独の経済的パートナーシップの強化と旧東独地域への協力を期待
さる10月31日から11月2日にかけ訪日したドイツ連邦のコール首相は、豊田会長はじめわが国経済界首脳を招き懇談会を開催した。以下は豊田会長からの基調講演(日本経済の現状および今後の日独関係のあり方)を受けてのコール首相の講演要旨である。
- コール首相講演要旨

- 変革期の国際社会
世界は劇的な変革期にあり、東西2極政治体制の崩壊、東西ドイツの統合、南・東欧の新しい動き等、新たなダイナミズムと「質」が国際社会を変質させている。4年後には21世紀が始まろうとしており、現在そのための各種の準備・決定を行なわなくてはならない。この劇的な変化を10年前には誰も予測することはできなかった。現在、欧州はEU統合に向けて邁進しており、来年6月、オランダにおいてマーストリヒトIIが締結される予定である。
- 通貨統合について
通貨統合については「ユーロ」という単一通貨導入の準備が進められており、安定した国際通貨として導入するためにも加盟条件を厳しくして現状のままの基準を維持していくことが必要である。現在の国際市場では米ドル、円、マルクが基本通貨として扱われており、これらが交互に影響し合う体制になっているが、このユーロ導入により新しい「質」の変化が生じることになるであろう。
ドイツは貿易立国であり、欧州、アジア太平洋諸国との自由貿易を推進している。EU統合に関して「ヨーロッパ砦」になるのではないかとの危惧を抱いている人々がいるかもしれないが、心配は無用である。
- 今後の日独関係について
日独両国はともに敗戦国で焼け野原から今日の繁栄を築き、お互い尊敬すべき存在ではある。しかし、中欧およびロシア地域における政治・社会改革、米州におけるNAFTAの胎動、アジア地域でのAPEC等の地域経済への動き等の変化をみてもわかるように戦後50年間のやり方では通用しなくなってきている。これらグローバル・チェンジに対応するための政策転換が必要である。
私は国際社会の未来に関しては非常に楽観的な意見を持っている。今後、日独がパートナーとしてこの変化に対応するために協力して将来に備える必要がある。日独は国際社会で指導的立場にあることは事実であり、共同して国連等の国際機関の制度改革を推進していくべきである。
また、経済分野においてもヘンケルBDI会長の協力の下、「ジャパン・イニシアチブ」を積極的に推進していきたい。文化面での交流も重要であり、21世紀を担う日独青少年の国際関係、外国語学習等の相互理解に役立つための教育プログラムを充実することが重要である。
- ドイツ経済の現状
豊田会長から日本経済の現状と問題点について言及があったが、ドイツ経済も同様に「ドイツ病」というものを病んでいる。その処方箋として(1)減税を実施する、(2)財政赤字を減らすの2点である。特に財政赤字の問題は喫緊の課題であり、東西統一の代価がいかに高くついたか痛感している。これは50年間の東側政権による「負の遺産」がいかに大きいかを知るのに大変良い機会にもなった。政治が経済におよぼした荒廃であり、復興のためには想像していた以上の資金が必要であることもわかった。
- 旧東独地域への協力
旧東独地域は現在、EUの端の方に位置しているようにみえるが、近い将来、欧州の中心に位置することになる。隣国にはポーランド、ハンガリー、チェコ等の将来性のある国々がある。同地域の経済復興に手を貸していただきたい。
- 質疑応答
- 問:
- ドイツの政労使の関係について
- 答:
- フェデラリズム(連邦主義)では労使関係に政府が必要以上に関与することはない。連邦政府としては緊密なコミュニケーションを図っていく予定である。ただし、政府は労使との関係において必要以上に譲歩すべきではない。
- 問:
- オースト・ポリティック(東方政策)について
- 答:
- 東方政策は中道政策が世襲されていくであろう。軍事的ではなく文化・経済の分野で展開していくことになろう。
日本歴代の首相は東欧・中欧への支援努力への要請に対して理解を示してきてもらっている。独は1人当たり100ドル以上の対露・東欧支援対策を講じてきており、負担が大きい。特に露およびポーランドは国際政治における影響が大きく地域の安定を考慮した場合、支援をする必要がある。G7およびリヨン・サミットでも協力要請をした。日本は領土問題を巡り、露とはしっくりいっていないが、領土問題は一夜では解決しないものであり、長期に良好な関係を築いていくべきである。
- 問:
- ドイツの対中国政策について
- 答:
- 革命時代の旧世代と新しい世代との交代が始まっており、新世代の中国共産党との交流も活発に行なわれている。各省の党書記クラスもほとんど50歳代の人々である。独の各都市と姉妹都市条約を締結する等、人的交流が盛んに行なわれている。また、軍でも幹部の若返りが行なわれており、長征時代に生まれた世代は少なくなり、新世代と交代しつつある。今後、人民解放軍の幹部候補生が、ドイツの軍学校に留学するようになり、若い世代との軍交流をするようになるだろう。
対中国政策で人権外交ばかりを優先するのは得策ではない。中国に対して道徳的説教をするつもりはない。ドイツの過去の歴史を考えると、人権外交のことを言える立場にはない。中国を訪れ、人と人の関係を積極的に持つことが重要である。中国の将来について、政治分野でも決して悲観的になるべきではない。
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