マハティール マレーシア首相との懇談会/5月19日

APEC
─ 貿易・投資の自由化は緩やかに


マレーシアのマハティール首相が経団連を訪れ、豊田会長ほかと懇談した。今年4月、訪ASEANミッションがマレーシアを訪問した時には下院総選挙と重なり、同国政府首脳とは面会できなかった。同選挙はマハティール首相の指導の下、与党が圧勝し、同首相の掲げる政策に対して国民が確かな信任を寄せていることが改めて明らかになった。
今年11月のAPEC大阪会合を前にして同首相は、「アジアのリーダーとして日本にはアジア諸国の代弁者になってもらいたい」と述べるとともに、貿易・投資の自由化については、各国の発展段階に応じた緩やかな合意を目指すことが重要との見方を披露した。また、アジア諸国の立場からみた円高の影響についても分析し、現状に対する理解を深めてほしいと語った。以下はその概要である。

1.APECへの対応と日本への期待

APECにおける貿易・投資の自由化は緩やかに進めるべきである。国内の市場開放を急ぐと競争力のない途上国は苦しい立場に置かれる。ASEAN諸国が自由化を進めるには、ある程度の時間が必要である。自由化は徐々に進めるべきだとの考えに日本が賛同してくれることは、すべてのメンバーにとって有益なことだと思う。
日本はアジアのリーダーとして、国際社会でアジア諸国の代弁者として発言してほしい。そのためにはアジア諸国のことを良く知る必要がある。経団連が開催したアジア隣人会議は、相互の意見交換を促進するうえで有効であったと思う。われわれが発言するのとは異なり、日本の発言は世界の注目を集めるものである。

2.技術移転と人材の登用

これまで日本からマレーシアへの技術移転は順調に行われてきた。日本からの技術移転なくして、現在のマレーシアの産業発展はなかった。受け入れ側の問題点を改善し、一層の技術移転が円滑に進むように努めたい。
日本企業の場合、マレーシア人を現地企業の経営陣に登用することは少ないと聞いている。アメリカ企業のなかには、マレーシア人を経営陣に登用しているところや研究開発部門で採用しているところも多い。同じようなことを日本企業にも期待したい。

3.アジア諸国からみた円高問題

マレーシアにとって円高は大きな問題になっている。日本からは円借款を受けており、利子の支払いだけでなく、円相場の上昇に伴い、過重な負担が発生している。現在の円高は、われわれにとっても厳しいものであることを理解してほしい。
世界の国々が円高によってどのような影響を受けているかを検証することは有意義なことだと思う。円高にもかかわらず、日本国内の生活費が下がらないのは理解に苦しむ。マレーシアは日本に石油やガスをドル建で輸出しており、日本はその他にも多くの原材料を輸入している。本来は賃金を上げる必要がないほど、物価が下がるはずなのだが、円高差益が十分消費者に還元されていないのではないかと考える。

4.直接投資と経済発展

アジアには経済の発展段階が異なる多くの国や地域が存在している。資本蓄積も不十分であり、先進国からの投資を必要とする国も多い。マレーシアについても海外からの投資なくして、現在の発展はあり得なかった。直接投資によって技術や経営ノウハウを移転し、製品を製造し輸出できれば、ある程度の発展は可能であり、また公正な競争にも参加できるようになる。
これまで欧米諸国は一様に時間をかけて工業化を進めてきたが、アジア諸国の場合、経済の発展段階に格差があるため欧米諸国と同じように物事は進まない。このような問題を話し合うためのひとつの場として、EAECを提唱したのである。

5.マレー半島横断パイプライン計画

マラッカ海峡経由で多くの物資が日本に運ばれているが、近年、同海峡は航行過密となり、接触事故や汚染も懸念されている。同海峡のバイパスとして、マレー半島横断パイプラインの建設計画が、日本国際協力機構(JAIDO)のプロジェクトとして進められている。政府としてもできるだけ協力したいと思っているので、民間企業も前向きに取り組んでほしい。

6.懇談 ─ 経団連側の発言から


握手するマハティール首相と豊田会長


マレー半島横断/マラッカ海峡バイパス原油パイプライン計画について

経団連関係機関・JAIDOと千代田化工建設が進めている。マラッカ海峡は日本など東アジアへの石油輸送の大動脈。バイパス・パイプラインの建設により、航行過密状態の解消を狙う。
パイプライン両端には、日本および東アジア諸国からの無償供与または無償貸与の形で、原油貯蔵基地を建設する計画である。これらの供与国は緊急時にここに貯蔵された原油を優先的に時価で購入する権利を持つ。
原油需要の安定性が確保されるほか、新たに石油化学プラントの建設が促進され、マレーシア、シンガポール、インドネシア、タイ等の近隣諸国は直接的な利益を得ることができる。


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