IT化、グローバル化が進展する中で、わが国が国際競争に勝ち抜いていくためには、「ものごとの本質をつかみ、課題を設定し、自ら行動することによって問題を解決していける人材」を育成することが急がれる。しかし、現在の学校教育はこうした人材を育成できていない。
日本経団連では、こうした問題意識に立ち、4月19日、「21世紀を生き抜く次世代育成のための提言」を発表した。本提言では、今こそ、教育を国家戦略の重要な柱として位置付け、改革を断行すべきだと主張した。以下は提言の概要である。

I.産業界の教育界に対する期待
1.3つの力の伸張
- (1) 志と心:
- 社会の一員としての規範を備え、物事に使命感をもって取り組む力
- (2) 行動力:
- 情報の収集、交渉、調整などを通じて困難を克服しながら目標を達成する力
- (3) 知 力:
- 深く物事を探求し考え抜く力
2.全体の底上げに加えトップ層の強化にも注力
II.大胆かつスピード感のある改革が必要
1.改革に向けた考え方
- IT化、グローバル化への対応、公教育への不信感による塾通いの常態化を解消
- 均質性重視からの転換(生徒・学生の多様性を踏まえた教授方法や新しいニーズに対応する教育)
- 教育界に新しい風を入れる−外部の人材・ノウハウを積極的に活用する
2.教育行政の方向性・「多様性」「競争」「評価」を基本に制度を改革
- ○ 「多様性」に富んだ教育に向け教育現場の裁量を拡大する(公設民営、株式会社立学校など)
- 文部科学省の役割を学習内容の最低基準など大きな方向性を示すことに絞る
教育委員会制度を見直し、教育委員会が地域の特性を生かした教育施策を企画・運営する
- ○ 「競争」と「評価」を基本に教育現場の取り組みを促す
- 競争的環境の導入(学校選択制拡大、優れた取り組みに対する予算付け、一人当たりの教育予算を拡大)
教育機関や教員の取り組みに対する評価制度の導入(関連情報の公開)
III.教育界が取り組むべき課題
1.高等教育「競争的な環境の中で切磋琢磨、有為な人材を輩出」
- (1) 高等教育機関は、カリキュラムを工夫し学生のやる気を引き出す
- 授業形式の工夫、成績評価の厳格化と出口管理の徹底、外部人材登用
- (2) 高等教育機関は、学部教育の充実を図る
- 教養教育の充実、専門知識を学ぶ動機付け
- (3) 多様な主体が、多面的に大学を評価(大学は積極的に情報開示)
- 大学の個性化、国立大学の経営の自立
- (4) 国は、大学間の競争を促す(バウチャー制度の導入など)
2.初等中等教育「地方行政や各学校、教員の発意で学校・授業改革を実施」
- (1) 国は、教育委員会制度を根本的に改革する
-
立案機能を強化(専門的知識のある人を登用)、教育委員会を再編し広域化
教育委員会が主体的に地域の教育の方向性を決定
- (2) 教育委員会は、意欲ある学校・教育を支援する
-
意欲ある取り組みに対する人員、予算の加配(習熟度別授業の実施など)
外部人材による新しいプログラムを導入
学校評価制度の充実、校長・教員評価と処遇への反映
- (3) 教育委員会は、教員の発意を促す
- 「加点主義」による評価、「学びなおし」の機会提供
- (4) 教育委員会は、優れた取り組みを紹介・普及させる
- シンポジウムの開催、事例集の発行
- (5) 国は、学習指導要領のあり方を再検討する
IV.産業界として積極的に協力し、また自らも取り組む
- 大学教育の質の向上に協力(カリキュラムの開発や社会人の講師派遣等)
- 職業観醸成に協力(インターンシップの積極受け入れ)
- 教育界と社会との循環(教職員の企業研修、高等教育機関での社会人の学びなおしなど)、連携を強化(企業が社員教育を高等教育機関に委託など)
- 社員が講師として学校教育の充実に協力することを奨励
- 人事評価、小集団活動など企業ノウハウの提供
- 家庭教育を充実させる機会を与える
- 卒業学年に達しない学生に対する選考活動を慎む、学校名不問の採用を実施
- 採用試験の主旨、概要および方向性について積極的に公開
《担当:社会本部》