一般社団法人 日本経済団体連合会
【政労使の意見交換】
〔政労使の意見交換(26日開催)での議論について問われ、〕来年の春季労使交渉と、最低賃金の中期的引上げ目標の二つがテーマであった。
春季労使交渉については、2年連続で約30年ぶりの高い月例賃金引上げを実施し、2023年は賃金引上げの力強いモメンタムの「起点」の年、そして2024年はそれが大きく「加速」した年となった。2025年はこの流れを「定着」させ、構造的な賃金引上げを実現したいということを申し上げた。
加えて、働き手の約7割を占める中小企業の社員や、有期雇用等労働者の処遇改善の必要性についても申し上げた。同一労働同一賃金の考え方に基づく対応の徹底や正社員への登用推進に加え、中小企業では価格転嫁が大きなテーマになる。大企業と中小企業に限らず、中小企業と中小企業、あるいは中小企業と消費者との取引も含めて、労務費を含む適切な価格転嫁が重要という認識や「良い製品・良いサービスには相応の値が付く」ことをソーシャルノルム(社会的規範)として浸透させていく必要がある。
来年の春季労使交渉に向けては、ベースアップを重要な方策の一つと意識して賃金引上げを進めてほしいというメッセージを込めて、1月末までに「2025年版経営労働政策特別委員会報告」を取りまとめ、日本全国約60カ所での講演などを通じて周知活動を展開していきたい。
最低賃金については、日本が諸外国と比較して金額が低いことは事実であり、引上げが必要だという思いは関係者に共通している。ただし、労使協議を経て双方の納得の上で企業が決める賃金と異なり、最低賃金は、最低賃金法を根拠として全ての企業に適用され、違反した場合は罰則が科される厳しいものである。そうした点を踏まえ、チャレンジングな目標を掲げることはよいが、達成不可能な目標を掲げて進めていくことになってはいけないと思う。最低賃金の引上げによる影響も近年大きくなってきており、関係者間でよく意見交換をし、結果として最低賃金の早期の引上げが可能となるような環境整備を政府において進めていってほしい。
〔意見交換において、2020年代に最低賃金を全国加重平均1,500円以上に引き上げるという政府目標の達成が可能となるような環境整備の道筋が見えてきたかを問われ、〕具体的に見えてきたものはない。関係者の意見を聞いて、これから具体案を検討していくのであろう。
〔最低賃金を公労使三者によって構成される最低賃金審議会で決定するというプロセスについて問われ、〕規制改革推進会議(11月12日開催)において、今後の検討課題として「最低賃金の決定プロセスの見直し」が挙げられていたことは承知している。しかし、最低賃金の決定プロセスを規制改革推進会議で検討することには違和感がある。最低賃金法上、地域別最低賃金は、地域における①労働者の生計費、②賃金、③通常の事業の賃金支払能力、を考慮して定めることとなっており、これらの考慮要素を基に公労使三者構成の審議会で決定されるべきであろう。
【トランプ次期米大統領による関税引上げ】
〔トランプ次期米大統領が中国やメキシコ・カナダからの輸入品に追加関税をかけると表明したことについて問われ、〕報道されている追加関税が実際にどのような要件・税率で実施されるかは現時点で不明である。現在は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)により、メキシコ・カナダとの間では原則として関税がかからないことを前提に、現地に製造拠点を設けている日本企業も多く、実際に関税がかけられれば、日本企業への影響は甚大になる恐れがある。今後の政策を注視したい。
米国のような経済大国による関税の引上げは、多くの国々に影響を与えるだけでなく、相手国による対抗措置によって自国にも大きな影響を与え得る。米国には、国際社会において、ルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序を支えるためのリーダーシップの発揮を強く期待する。
〔国家間の懸案事項の解決のために関税を利用するという交渉方法について考えを問われ、〕追加関税の具体的な要件・税率が現時点で不明であり、報道されている追加関税の是非については判断できない。自国の経済的利益を優先し、取引によって外交を行う「ディール外交」は、トランプ次期大統領の手法の一つであり、どのように対処していくかは、都度、各国が主体的に判断していくことであろう。
【中国短期ビザ免除の再開】
〔中国政府が日本人の短期滞在ビザ免除措置を11月30日から再開すると発表したことの受け止めを問われ、〕今回の発表を歓迎する。日本から中国への円滑な渡航が可能となり、ビジネスの活性化につながることを期待する。
〔免除措置を再開した背景を問われ、〕中国は、新型コロナウイルス感染症の流行を理由に短期ビザ免除措置を停止する暫定措置を講じていたが、2023年7月以降、暫定措置を徐々に解除し、これまでに計20カ国以上を対象に短期ビザ免除措置が再開されている。今般ようやく日本も対象となった。人の往来を活発にし、ビジネスを通じて中国経済を活性化したいという思惑もあるのではないか。
【総合経済対策】
〔政府の総合経済対策(22日閣議決定)の受け止めを問われ、〕わが国の需給ギャップはほぼ解消され、今後は供給力の強化に資する施策が求められる中、今般取りまとめられた総合経済政策は、潜在成長率を高める国内投資の拡大につながる、思い切った内容・規模であると受け止めている。また、電気・ガス補助金の再開や、規模を縮小してのガソリン補助金の継続なども盛り込まれた。
他方、予算の単年度主義を排し、中長期のレンジで計画的な投資を行いつつ財政均衡を図る「ダイナミックな経済財政運営」が重要との考え方に立てば、本来、重要施策への政府投資は当初予算で着実に計上し、補正予算は災害等の緊急対応に絞るべきである。
わが国の財政状況は、債務残高対GDP比が250%を超え、長期国債の格付けがG7の中でイタリアに次いで低いなど、極めて厳しい状況にある。今後は、「金利のある世界」となり、財政規律が極めて重要となる。
【年収の壁】
〔いわゆる103万円の壁の引上げについて問われ、〕現役世代の可処分所得の増加や、年収の壁に起因する働き控えの解消を図るという趣旨には賛同する。
ただし、所得税に関する103万円の壁だけでなく、社会保険に関する106万円の壁や130万円の壁など、次なる壁が存在している。また、わが国の財政状況は極めて厳しく、大幅な税収減は、財政規律の観点からは問題である。こうした状況を踏まえ、個々に議論するのではなく、財政規律の問題、税の問題、社会保障の問題を一体的に解決すべく、与野党で議論してほしい。
【政治資金】
〔企業・団体献金のあり方について問われ、〕民主主義を適切に維持するためには、相応のコストがかかる。民主主義が「参加と責任のシステム」であることを踏まえれば、社会の構成員である企業が政治に参加する、すなわち自発的な寄附を行うことは当然であり、企業・団体による政治寄附は社会的役割の一環として重要だと考える。八幡製鉄政治献金事件の最高裁判決においても、企業は社会的実在であり、政治寄附も当然の行為として期待されることが示されている。
ただし、政治資金については、透明性の確保とルールの遵守がなされていることが大前提である。政治資金規正法の再改正に向けた与野党協議においても、喧々諤々の議論を行い、この2点を徹底してほしい。
【金融政策】
〔日銀の金融政策について問われ、〕デフレの時代は終わりつつある。物価が上昇する中で、企業は生産性の向上を加えて物価上昇に負けない賃金引上げを実現することで、賃金と物価の好循環を回していかなければならない。
ただし、物価が乱高下する状態では好循環は実現しない。政府・日銀には、金融政策の正常化をもって、2%程度の適度な物価上昇を実現してほしい。日銀は今、賃金と物価の動向を注意深く分析しているところであろう。政策金利の引上げを含め、どのような金融政策をとるか、引き続き注視したい。