一般社団法人 日本経済団体連合会
【東北経済の課題・復興】
震災復興に向けてまだまだ課題が多い。震災が東北における人口減少に拍車をかけていることも理解している。こうした課題を克服していくためには、従来から東北が強みを持つ農業、観光が鍵となる。ここ数年、一次産業は拡大し、インバウンド(訪日旅行者数)も伸びている。東北経済の発展に向けて、今後もこうした強みを拡充していくことが重要である。加えて東北では、ILC(国際リニアコライダー)誘致をはじめ、積極的に最先端科学を用いた地域づくりを進めている。前向きで良い取り組みだと思う。
他方、時間が経過するほど、震災が持つ意味の重みが増していると感じている。復興期間があと数年で終わるので、社会構造の変化を踏まえたインフラ整備も必要である。経団連は復興、東北経済の再生に向け一緒に取り組みを続けていく。
復興をめぐる個々の課題については、東北経済連合会と問題意識を共有している。一次産業については、産業構造を変えて、輸出やマーケティングに取り組むことが重要である。このためには、デジタル技術を用いて、一次産品を市場や流通に結びつけていく必要がある。これは経団連の中心課題であるSociety 5.0と軌を一にしている。中小企業対策に関しても、これまでのような大企業の下請けという機能にとどまらず、中小企業みずからが水平分業へと移行していくことが求められている。今はピンチであると同時に新たな産業構造の構築に向けたチャンスでもある。こうした点で、経団連のSociety 5.0と東経連ビジョンである「わきたつ東北」は連携できる。双方がそれぞれの課題に取り組み、相乗効果を発揮することで、東北の再生・活性化につなげていく。
【ILCの誘致】
ILC(国際リニアコライダー)に限らず、日本の科学技術予算は諸外国と比べて十分ではない。科学技術予算の対GDP比が国際的に低いうえに、従来、日本がリードしていた技術分野においてもその優位性が失われている。こうした状況はかなり危機的であると経団連は一貫して警鐘を鳴らしてきた。他方、日本の財政状況は厳しく、政府としてどの分野を優先するかは大変難しい選択であると理解している。税収が当初想定よりも伸びているなか、予算を手当てする際の具体的な優先順位について議論することが必要である。
ILCについては、国際機関を誘致することに近い意味を持つ。その運営主体を日本が担えるまたとないチャンスであり、東北に誘致する意義は大きい。しかし、財政状況は厳しい。実現するための解を何とかして探していきたい。
【金融政策】
本日の日銀の金融政策決定会合において、物価安定目標を堅持すると同時に、米国や欧州の中央銀行の動きを視野に入れながら、弾力的に金融政策を運用する方針が示された。この政策の修正は自然なことであり、驚きはない。日銀は今後も物価目標をしっかりと定め、その達成に向けて、引き続き手を打っていくことになる。ただ、物価見通しについては、識者の間でも意見が分かれており、諸外国でも金融政策の範囲を超える事象が起きている。この点では、まだ宿題が残っていると認識している。
物価上昇が進まない背景のひとつとして、日銀は賃上げに対する企業の慎重な姿勢を指摘している。ただ、日銀のレポートにおいても、賃金だけではなく、複合的な要因が言及されている。経団連はこの5年間、賃上げに向けた積極的な対応を呼びかけてきた。この結果、人手不足ともあいまって、中小企業でも賃上げが進んでいる。賃金については、自社の経営状況を踏まえて、賃上げに取り組むというのが基本スタンスであり、これに変わりはない。