1. トップ
  2. 会長コメント/スピーチ
  3. 記者会見における会長発言
  4. 記者会見における榊原会長発言要旨

会長コメント/スピーチ  記者会見における会長発言 記者会見における榊原会長発言要旨

2018年5月21日
一般社団法人 日本経済団体連合会

【4年間の任期の振り返り】

2014年6月に経団連会長に就任して以来、この4年間で、130回近い記者会見を行ってきた。いろいろな場面が脳裏をよぎる。今日が最後の会見となると、寂しくもあれば、万感胸に迫るものもある。解放感と安堵感、やり切ったという満足感や清々しい思いもこみ上げてくる。メディアの皆様にも4年間お付き合いいただき、改めて感謝したい。

記者会見では、その時々の政治経済情勢や重要政策課題に関する経団連の取組み、考え、私自身の思いなどを率直に、真摯な姿勢で語ってきた。経団連の活動を社会に広く周知し理解を得ていくためには、メディアの果たす役割が極めて大きく、重要であることを強く実感した。経団連とメディアの間に良い意味での緊張感をもった信頼関係が築かれたと思っている。今後もこの信頼関係が続くことを期待している。

私が会長に就任した時の経済社会の状況を振り返ると、わが国のGDPは20年間、まったく増えていなかった。他方、その間に米国は2.6倍、韓国は4.8倍、中国は19倍に経済が拡大した。日本だけが経済成長していない「失われた20年」であり、日本社会は将来の展望が拓けず、閉塞感に覆われていた。また、財政再建や社会保障制度改革といった重要政策課題が山積していた。特に、社会保障関連支出は国家財政を超える120兆円にのぼり、2025年にはこれが150兆円になる。こうした課題を放置することはできず、きちんと解決しなければならないと考えた。また、経団連の存在感が低下し、国民や政治など社会との信頼関係が揺らいでいた。こうした時代背景の中で、日本を建て直さなければ、国際社会から置いていかれてしまうという危機感から、火中の栗を拾うつもりで経団連会長に就任した。

今、経団連は政府と連携し、デフレ脱却・経済再生をはじめとする重要政策課題に取り組み、具体的な成果も上がっている。国の成長戦略である「官民戦略プロジェクト10」は経団連が提言したものである。経団連が提唱するSociety 5.0もその中核的プロジェクトに位置づけられ、官民挙げて成長戦略を推進する体制を構築することができた。経済社会の構造改革に関しても積極的に政策提言を行い、社会保障制度改革や財政再建の重要性や切迫感が社会に浸透し、政府と危機感を共有できている。また、法人実効税率が29.74%へと引き下げられた結果、日本企業の国際競争力が高まった。これは、国内外の企業による日本国内への投資促進にも良い影響を与えるものである。働き方改革についても、政府と経済界の連携がなければ、罰則規定付きでの残業時間の上限規制を設けることはできなかった。女性の活躍推進も大きく進展した。このように多くの構造改革を進める上で、経団連が主導的な役割を果たすことができた。さらに、賃上げに関しても、2000年以降、2013年までベアがほとんど実施されない時代が続いていたが、企業が経済の好循環を回すためのトリガー役を果たすべきと考え、5年連続でベアを含む大幅な賃上げを実現した。社会的要請を踏まえながら、賃上げのモメンタムを維持・強化することも経済界の大きな役割であり、この面でも大きな成果があった。官民を挙げて成長戦略の推進と構造改革に取り組んだ結果、GDPは50兆円以上拡大している。

経済外交の推進について、経団連が強く働きかけを行った結果、TPP11や日EU EPAが実現した。米国との関係においても、トランプ政権下で日米間の通商問題が注目を集める中、8回にわたるミッションをワシントンDCのみならず15州に派遣し、日本企業が米国経済の発展に貢献している実態を丁寧に説明し、理解を深めてきた。日米関係を経済面でより緊密かつ強固なものとすることに貢献できた。中国、韓国との関係改善に向けても、両国との政治・外交関係が厳しい中、政治指導者に対し関係改善を継続的に働きかけてきた。経団連が政治・外交関係の改善を強力に後押ししてきたこともあって、現在、日中、日韓ともに良好な関係にある。

残された課題は、デフレ脱却・経済再生であり、あと一歩、あと半歩のところまで漕ぎ着けることができた。中西次期会長にも引き続きこの旗を掲げ、最優先課題として取り組んでもらいたい。特に、Society 5.0の社会実装はこれからである。同時に、財政再建、社会保障制度改革、経済外交も継続して推進してほしい。

【働き方改革】

働き方改革関連法案にはもともと、裁量労働制の拡大、高度プロフェッショナル制度の創設、同一労働同一賃金、残業時間の上限規制の4項目が盛り込まれていたが、裁量労働制の対象拡大が除外された。残された3つの課題のうち、高度プロフェッショナル制度について、与党と日本維新の会、希望の党との修正協議の結果、適用を受けた労働者が自らの意思で解除できる規定が盛り込まれるとともに、下請けの中小企業が過重労働にならないよう納期や発注の面で配慮することが大企業の努力義務として明記された。いずれも働き方改革を推進する上で適切な修正と理解している。高度プロフェッショナル制度を含めた3つの改革が実現するよう、関連法案が早期に成立することを期待している。

高度プロフェッショナル制度は高い専門性を有する労働者に対する制度であり、かつてのホワイトカラー・エグゼンプションとはまったく別のものである。経団連はホワイトカラー・エグゼンプションの対象を年収400万円以上としていたが、高度プロフェッショナル制度の年収要件は1075万円とされている。まったく違う制度であり、高度プロフェッショナル制度について年収要件の引き下げを求めていく考えはない。

【政治との関係】

日本再興には、政府、経済界、国民が手を携えて、取り組まなくてはならない。会長就任時、安倍総理は「強い経済を取り戻す」というスローガンを掲げ、以来アベノミクスを推進してきている。日本を建て直すためには政治と経済が一体となって取り組まなければならないと考え、政治との連携強化を重要課題に位置づけた。平時であれば、政治と経済がお互いにけん制し、切磋琢磨する関係が必要であるが、現在の危急存亡の時は政治と経済が連携し、デフレ脱却・経済再生といった重要政策課題に取り組まなくてはならない。こうした経団連の使命、役割について、本日の会見のような場で説明するなど、社会への浸透を図ってきた。この4年間で社会、国民の理解が得られるようになってきたと手ごたえを感じている。

当然、協調関係のなかにも緊張関係は必要である。また、政治に政策を実行してもらうためには、単なる批判ではなく、政策立案・決定過程に参画し、政策を提言し、議論することが重要である。この考えの下、経済財政諮問会議や未来投資会議など政府の会合に経済界の代表として参加し、安倍総理に対して直接提言を行ってきた。経済界の役割は、政治からの要請を唯々諾々と受け入れることではなく、政治に政策提言し、実現を期することである。今後の政治との関係については、中西次期会長が判断することであるが、引き続き重要政策が決定される場に経済界の代表として参加し、経済界の考えを積極的に提言・発信してほしい。

以上

「会長コメント/スピーチ」はこちら