一般社団法人 日本経済団体連合会
【経団連70周年と4年目の課題】
経団連は創立70周年を迎えた。経団連設立時の使命は、戦後の日本経済の復興・再生と健全な発展であった。経団連の先人たちは、血の滲むような努力で日本経済の立て直しを進め、東洋の奇跡と呼ばれる経済成長を実現し、世界第3位の経済大国を築き上げた。一方、この70年は平坦な道のりではなかった。オイルショック、貿易摩擦、プラザ合意による円高、バブル崩壊、アジア通貨危機、リーマンショック等々、世界経済、日本経済を揺るがす試練に直面した。こうした時々にあって、経団連は産業界の総司令塔として、その克服に力強く貢献してきた。そして今、日本経済が様々な課題に直面する中、経団連の役割はさらに重要になっている。引き続き、日本の経済・社会全般の改革の牽引役を担うべく、国益や国の将来を見据えた骨太の政策提言とその実現に向けた働きかけ、即ち「Policy & Action」を果敢に進めていく。
今年度の優先課題としては、第一にデフレ脱却と経済再生を確実に実現し、GDP600兆円経済に向けた確固たる道筋をつけることである。そのためには、成長戦略の推進が不可欠であり、とりわけ、Society 5.0の実現に強力に取り組んでいく。第二は構造改革の推進である。規制改革、税制改革など企業活動をさらに促進する制度改革に取り組んでいく。また、国民の将来不安を払拭するため、社会保障制度改革や財政健全化など痛みを伴う改革にも真正面から取り組む必要がある。第三に国際的な課題として、自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化に経済界の立場で取り組んでいく。そのため、アメリカやEU、さらには中国・韓国、インド、ロシアとの経済協力関係の強化をはじめ、経済外交を積極的に展開していく。第四に東京オリンピック・パラリンピックの開催や大阪・関西万博の誘致など、国家的イベントの成功に向けて、オールジャパンの一翼を担うことである。今年度は、私の経団連会長としての4年目であり、最終年となる。副会長の皆様と力を合わせて、経団連の活動をしっかりと遂行していく。
【成長戦略の推進】
最優先課題であるデフレ脱却・経済再生について、1-3月期のGDP成長率は年率換算で+2.2%となり、5四半期連続のプラス成長となった。こうした景気回復・経済再生に向けた着実な歩みをさらに加速化し、より確かなものとしていくことが課題である。その鍵を握るのが成長戦略であり、その柱は官民戦略プロジェクト10である。潜在需要の拡大を目指す10のプロジェクトであり、これをしっかり推進していかなければならない。具体的には、Society 5.0、健康立国、スポーツ振興、サービス産業の生産性向上、農業の成長産業化、観光立国、消費活性化(プレミアム・フライデー)などであり、これらすべてを確実に実行していくことが重要である。そして、その実行役を担うのは経済界である。経団連では10のプロジェクトについて担当委員会を決め、推進を図っている。
企業・経済界の課題としては、成長戦略の推進に向けて、企業が積極経営を推進し、設備投資や研究開発投資など成長への投資を拡大し、経済成長を牽引していくことである。また、経済の好循環の実現に向けて、2014年から4年連続でベースアップを実現し、賞与も高水準で妥結してきた。それまで5年間実施されなかったベースアップをはじめ、賃金引上げに自ら取り組むことで、経済界は経済の好循環のトリガー役を果たしてきた。まだ消費拡大には直接結びついていないが、このモメンタムを継続していきたい。さらには、長時間労働是正をはじめとする働き方改革にも取り組んできた。今後、労働基準法改正により残業時間の上限規制が設けられることになる。企業自らが生産性向上に取り組み、長時間労働でなくても利益を出せる体質へと変えていく必要がある。
【財政再建】
財政再建は国の至上命題であり、まずは2020年のPB黒字化を確実に達成しなければならない。財政制度等審議会会長としても、財政再建の確実な実現に向けた提言を取りまとめ、麻生大臣に建議したが、PB黒字化は将来世代に対する現役世代の最低限の義務であると同時に、国家としての信認を得るための前提でもある。2018年度までの集中改革期間で社会保障関係費の自然増を年間5000億円、非社会保障の歳出の伸びを300億円に収めるという「目安」を順守し、歳出改革を継続していくことが重要である。また、経済・財政再生計画改革工程表に盛り込まれたすべての項目を実行していくことも必要である。簡単な目標ではないことは理解しているが、こうした取組みを着実に実施していけば、2020年度PB黒字化は実現できる。また、PB黒字化の実現に向けて、2019年の消費税率引き上げは確実に実施すべきである。これは国際公約であり、引き延ばすことがあってはならない。2019年の消費税率の引き上げ、2020年度のPB黒字化については、経団連としても旗を降ろさずに引き続き主張していく。
【待機児童対策】
これまで政府は、2013年度から2017年度にかけて、53万人分の保育の受け皿確保に取り組んできた。本日、安倍総理は2018年度から2020年度までの3年間で新たに22万人分の受け皿を整備し、さらに2022年度末までに10万人の受け皿を整備する構想を発表した。経済界としても心強く思っており、歓迎したい。保育の受け皿拡大に全力で取り組むという政府の強い意志、覚悟が示されたと受け止めている。財源の問題はこれからの議論となるが、経済界はこれまで企業主導型保育事業として、2013年度から2017年度にかけて5万人分の受け皿を確保している。今後の企業の貢献のあり方については、会員企業の声を踏まえながら、前向きに検討していく。
【生産性向上への取り組み】
2015年、安倍総理がサービス業の生産性向上協議会を発足させ、製造業の生産管理のエキスパートを飲食業などサービス業に派遣するなどして、生産性向上を図った。大企業の人材が小規模事業者の経営の現場に入り込み、生産管理の効率化に取り組んだ結果、コストが削減され、生産性が改善した事例が相当出てきた。今回はサービス産業に限らず、生産性向上国民運動推進協議会として、安倍総理を会長に経団連や連合などが参加する。大企業のノウハウを中小企業、サービス業へ移転することで、国全体の生産性の向上、国際競争力の強化につなげていく。大企業の生産管理のプロを中小企業に派遣し、生産性向上の輪を広げていく。
【休み方改革】
休み方改革の一環として、消費喚起にもつながるキッズウィークが提案された。学校の休日を弾力的に運用したうえで、児童の休暇に合わせて、保護者が休暇を取得できるよう、そのための環境整備に経済界としても協力してほしいと安倍総理からも要請された。経団連としてキッズウィークには賛成であり、働き方・休み方改革、消費喚起の両面から推進していきたい。経団連では、年3日程度の追加的な年休の取得に取り組むよう会員企業に呼びかけている。今後、さらにどのようなことができるのか検討していきたい。