一般社団法人 日本経済団体連合会
【2017年の景気認識】
2016年、日本経済はアベノミクスの下、緩やかながら着実に回復した。力強さを欠く面はあったが、年後半は3四半期連続でプラス成長となり、輸出や生産などに良い兆しが現れ始めた年であった。2017年、米国ではトランプ新政権が誕生し、規制改革や減税などを背景に米国経済は活性化し、拡大するだろう。新興国経済も原油価格や資源価格の上昇を背景に明るさを取り戻している。こうした中、日本経済も、世界経済が良い方向に向かっていくという追い風を受けて、回復基調が加速すると思う。2016年、日本経済は踊り場にあったが、2017年はそこから一歩も二歩もステップアップし、成長軌道への回帰を果たす年になると見ている。期待を込めて言えば、米国経済が活気づき、世界経済全体がインフレ傾向を強めていけば、日本も円安株高を背景に物価が上昇し、デフレ脱却を実現する年になるだろう。様々なリスクがあることも承知しているが、こうしたリスクを越えて経済の好循環を実現したい。
重要なことは、日本が追い風を受けているうちに、きちんと成長戦略を実現していくことである。具体的には、「官民戦略プロジェクト10」を着実に実行していくことであり、とりわけSociety 5.0をはじめとする21世紀型の成長を牽引する重要プロジェクトの推進していくことで、自律的で持続的な経済成長につながっていく。同時に規制改革、構造改革も進めなければならない。これまでの取り組みのスピードは十分とはいえず、経団連からも毎年100項目以上の規制改革を要望しているが、実現率は2、3割である。昨年も149項目の規制改革を要望しており、このすべてを実現してもらいたい。こうした規制改革、構造改革を進めていけば、米国経済が好調なうちに自律的な経済成長が遂げられる。これが今年、安倍政権に一番期待したいことである。
【春季労使交渉】
今年の春季労使交渉における経営側の基本姿勢については、1月17日に2017年版経労委報告を公表して、表明する。基本的な考えとしては、経済の好循環を力強く回し、個人消費を喚起するためにも、これまで3年続けてきた賃金引上げのモメンタムを今年も継続していくべきだというものである。具体的には、昨年、収益が拡大した企業には年収ベースでの賃金引上げに取り組んで欲しいと呼びかけたように、今年も同様のトーンでの基本スタンスを表明していく。また、今年の経労委報告の中では、過去3年賃金引上げを続けているにも係らず個人消費が伸びていない実態についても分析し、対応すべきであると指摘している。国民の将来不安や子育て世帯の教育費負担、消費者の節約志向といった点に何ら手をつけないままでは、経済界が賃金引上げに取り組んでも消費は拡大しない。こうした課題に官民あげて取り組むことが必要であり、経労委報告の中でも政府に対する要望として示している。経済界は勿論、官民あげて消費喚起に向けて、原因をきちんと分析しながら取り組むことが重要である。
【働き方・休み方改革】
働き方改革は重要な政策課題であり、その柱は長時間労働の是正と同一労働同一賃金の実現である。長時間労働については、長く働くことが良いという文化を変え、是正するとともに、残業時間への上限規制の導入など36協定を見直していくことが大事である。経済界自身が意識を変えて、長時間労働の慣行を変えていかなければならない。36協定の見直しに関しては、現状、労使が合意すれば無制限に残業ができる枠組みとなっており、これに歯止めをかける何らかの上限規制は必要だと考えている。ただ、業種業態によってはこうした規制が当てはまらないところもある。例えば、研究開発職、マーケティング職など、職種によっては一律に規制しては、業務の継続性の観点から問題がある。業務の継続性と労働者の保護の両方を勘案して、上限規制について議論していくべきである。
同一労働同一賃金について、その基本的考え方は、社内で正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に不合理な格差があってはならないということである。これを踏まえ、様々な要素を総合的に勘案して、均等・均衡待遇を目指すというのが日本型の同一労働同一賃金である。昨年、政府よりガイドライン案が示されたが、わが国の多様な賃金制度や雇用慣行に配慮しながら工夫されており、妥当な内容だと評価している。今後、ガイドラインに沿って法改正に向けた検討が始まるが、経団連としても会員企業の意見をしっかり踏まえながら、法改正に向けた議論に積極的に参加していく。ただ、企業の対応を進めるには、労使の話し合いも含めて時間を要するので、法律の施行まで十分な時間をとることも必要である。