一般社団法人 日本経済団体連合会
【消費喚起策】
現在、政府、関係業界で検討が進められているプレミアムフライデーは消費喚起策の一つの目玉であり、経済界としても全面的に協力していく。これは力強い個人消費の実現を目指し、デフレ指向ではない消費を定着させていく取り組みである。少し良い、プレミアムな商品・サービスの消費につなげることが肝心である。また、新たなライフスタイルの提案でもあり、15時頃には仕事を終えて、プレミアムフライデーを楽しむ運動を大いに盛り上げていきたい。
【日銀の金融政策】
9月に日銀が長短金利操作付き量的・質的金融緩和の導入を発表した際、これまでの金融政策についても総括的な検証が行なわれた。物価目標が所期の計画通りに達成されていない要因として、原油価格の低迷、世界経済の不透明さ、とりわけ新興国経済の伸び悩み、消費増税後の消費の低迷を挙げており、こうした要因については理解できる。追加緩和の必要性については、今は言及する時期ではなく事態の推移を見守りたい。
【経済統計の見直し】
統計を担当する政府の要員がこの10年で大幅に減少し、予算も微減するなど統計作成のリソースが限られている。また、社会の大きな変化やニーズに統計が追随できていない。こうした中、統計の精度向上につながる施策を講じるとともに、統計項目を時代に即したものに改編していくことが必要である。総務省の統計委員会は、統計の質の改善・向上、統計の統廃合・新設など司令塔としての機能・体制の強化を図るべきである。
GDPの基準改定に伴い、研究開発費が投資に加わることで、約20兆円程度のGDPの増大が見込まれている。こうした改定を行う場合には、過去に遡って計算し、連続性を担保する必要がある。
【介護保険制度改革】
介護納付金の総報酬割は安易に取り易いところから取るというものであり、まずは介護給付費の抑制を図るべきである。厚生労働省の試算によると、総報酬割を導入した場合、1000超の健保組合、1200万人超の加入者への負担増などの影響が及ぶことになる。まずは介護給付費の抑制を先行しなければならない。それが実現するのであれば、総報酬割を議論する余地はあるだろう。何が何でも反対するものではない。
介護給付費の削減は国民の痛みを伴う改革であるが、社会保障制度の持続性を確保するためには、痛みを伴う改革が避けて通れない。介護についてもきちんと給付の抑制に取り組んでもらいたい。
【春季労使交渉】
連合が先日、基本構想を発表したが、今後、これをベースに地方連合や産業別労働組合との議論を行い、11月末に正式な方針を決定すると承知している。現下の雇用・労働に関する経団連の基本認識や来年の春季労使交渉・協議における経営側の基本姿勢は、来年1月に取りまとめる2017年版経労委報告で明らかにする。まだ議論が始まった段階であるが、賃金引上げのモメンタムは何らかの形で継続したいと考えている。
【働き方改革】
過労自殺は誠に遺憾なことであり、絶対にあってはならないことである。経営トップが先頭に立って、過労死防止対策に取り組まなければならない。経団連では、今年を働き方・休み方改革に向けた集中取り組み年に位置づけて活動している。とりわけ過重労働と長時間労働の是正が重要課題であり、この取り組みを企業社会に浸透させていきたい。
長時間労働の是正に向けて、法的な対応が検討されているが、経団連としてもしっかり議論に参加して対応していく。同時に経済界の自主的な取り組みを推進していく。政府の取り組みと相俟って、長時間労働の撲滅につなげていきたい。
【配偶者控除】
女性の働き方に関する環境整備は重要な課題であり、配偶者控除に係る103万円の壁は是正するべきである。この問題を巡っては、様々な案が出ては消えているが、いずれにせよ損をする人と得をする人が出てくることになり、税収にも影響する。すべてを勘案したうえで、女性の働き方の環境整備を優先的に考え、できる限り早期に改善すべきである。
【エネルギー・地球温暖化】
原発再稼働に際しては、安全確保が最優先課題である。国の原子力規制委員会が安全基準を定め、審査を行っており、この審査に合致した原発については安全確保を前提に、住民の理解を得た上で、再稼働してほしい。
他方、パリ協定において、わが国は温室効果ガスを2030年度までに2013年度比で26%削減する中期目標を定めており、これは必ず実現しなければならない。この前提となるエネルギーミックスの電源構成において、原子力は20~22%を占めており、その実現が求められている。その上で、一般家庭におけるCO2排出量を40%削減するとともに、再生可能エネルギーの比率を引き上げるといったチャレンジングな取り組みが求められている。これらすべてを実現して初めて26%削減が可能となる。地球温暖化対策も国民の生活、生命に係る非常に重要な要素であり、国際公約でもある。2030年はすぐそこであり、原発再稼働に当たっては、この点も含めて全体を考える必要がある。
【日フィリピン関係】
このたびのドゥテルテ大統領の初めての訪日を経済界を挙げて歓迎したい。日本とフィリピンは長らく友好的で相互互恵的な関係を築き、あらゆる分野で関係を強化してきた。今年は日本とフィリピンの国交正常化60周年を迎える記念すべき年である。特に、経済面での関係は深く、日本はフィリピンにとって最大の貿易相手国であるとともに、最大の投資国であり、現在約1500社の日本企業が事業活動を行っている。また、日本は最大のODA供与国であり、経済協力、産業協力の面で結びつきは強い。加えて、フィリピンはアセアン諸国の中で日本と最も距離が近く、発効済みの日・比EPA、日・アセアンEPAや昨年、発足したアセアン経済共同体(AEC)により、サプライチェーンを構築するうえでも重要な拠点となることが期待される。ドゥテルテ大統領は、外資規制の緩和やビジネス環境の整備、インフラ投資の加速、技術革新と創造力の強化など10項目の経済政策を打ち出している。さらなる経済関係の強化に向けて、これら施策を着実に実行し、企業が活動しやすい環境の構築につなげてもらいたい。
【憲法改正】
日本国憲法は制定から70年が経過しており、時代に即したものに改正することは、一般論としてはあり得ることである。一方、今、わが国にとっての最優先課題はデフレ脱却・経済再生であり、そこに向けて、脇目もふらずに取り組まなければならない。憲法改正の議論が経済政策に係る国会審議や政策の推進へ影響することがあってはならない。