一般社団法人 日本経済団体連合会
【金融政策】
日銀が導入したマイナス金利には、プラスとマイナスの両方の作用がある。マイナス金利の狙いは、貸出金利を下げ、企業の設備投資や研究開発、また国民の住宅購買を促進し、消費を活性化させていくということである。プラスの効果が現れるまで時間を要することから、政策を評価するに当たっては、個々の効果や影響について議論するのではなく、長期的な視点に立って総合的に見ていく必要がある。設備投資や住宅購入を刺激する効果は必ず出てくるはずであり、日本経済にとってプラスになる。
【同一労働同一賃金】
経済界は正社員と非正規雇用の不合理な格差の解消に向けて、同一労働同一賃金を目指すという方向性を政府と共有している。ただし、賃金制度や雇用慣行は国ごとに異なるものであり、わが国の制度を踏まえた制度にしなければならない。特に日本の場合、職務内容だけでなく、労働者に対する期待・役割、将来における会社への貢献といった要素を勘案して賃金を決定している。同じ職務内容だから賃金を同一にするという考えをそのまま形にした制度はわが国の実態には合わないものであり、日本企業の人材活用の強みが失われかねない。
こうした点も踏まえながら、これから十分に時間をかけて議論すべき段階にあると認識している。非正規社員の待遇改善に向けて、その給与は正社員のどの程度の割合が適切かという点を巡って検討が行われている。これについても日本の雇用慣行・雇用制度を踏まえながら、しっかり時間をかけて議論していくことが必要である。
【消費税率引き上げ】
経団連としては、社会保障の安定化・充実と財政健全化の観点から、消費税率の10%への引上げを予定通り行うべきだと考えている。そのための環境整備として、短期的には消費のテコ入れを行い、中長期的には経済の地力をつけなくてはならない。
こうした中、先般、熊本地震が発生したが、リーマンショックや東日本大震災クラスの事態でなければ予定通り消費税率を引き上げると安倍総理はかねてより発言している。現在、熊本地震の被害状況について、実態把握が進められているところであるが、経済界としては、地震が発生した現時点においても計画通りに消費税率を引き上げるべきとの考えに変わりはない。さりながら、今後、熊本地震の経済的な損失が明らかになってくることから、そうした点も含めて、総合的に判断し決定されるだろう。
1%ずつ引き上げるという案については、事務手続が煩雑になり、特に中小事業者の事務負担を勘案すると、対応が困難になるとの指摘があり、無視できない問題だと思う。
【東京オリンピック・パラリンピック】
本日、公式エンブレムが決定された。日本的な清爽さや誠実さ、江戸らしさが感じられるデザインだと思う。昨年夏のエンブレム撤回を教訓として、非常に透明性の高く、厳正なプロセスで選考が行われたことは評価できる。選考過程で積極的な情報発信もなされ、多くの国民が関心を持って、納得を得られる形でエンブレムが決定されたことを歓迎したい。エンブレム問題や新国立競技場問題など想定外の事態が続いたが、これで東京オリンピック・パラリンピックの開催準備にも弾みがつき、前進していくものと期待している。
【憲法改正】
憲法は国の最高法規であり、その重みをしっかりと認識する必要がある。その上で、時代の変化を踏まえ、改正要件も含め必要に応じて見直しを行うことを否定するものではない。諸外国の事例も見ても、フランスやドイツをはじめ多くの国で時代に応じて、憲法は何度も見直されている。
改正に際しては、国のあり方に大きく影響をするものであることから、各界各層が十分に議論することが前提である。安倍総理も国民の間ではつらつと議論するべきであると発言しており、まずは国民の間で議論することが大前提である。5月3日の憲法記念日は、憲法の意義や時代に則したあり方を社会全体で考える適切な機会であると思う。
憲法をめぐる議論は大切だが、経団連としては、2005年にわが国の基本問題を考える提言の中で憲法についての考えをまとめてから、突っ込んだ議論を行なっていない。これは、20年もの間、デフレが続くという厳しい経済情勢の中、私が経団連会長に就任して以降、デフレ脱却・経済再生を最優先課題に掲げて取り組んでいるためである。
【三菱自動車燃費不正問題】
今回、日本を代表する企業で不祥事が起きたことは大変残念である。三菱自動車には、不正の原因究明、再発防止の対策、消費者への補償を速やかに行ってもらいたい。企業にとって、法令遵守はすべての経営課題に優先すべき事項である。三菱自動車には、この10数年の間に、コンプライアンスを巡る問題が二度も起きたことについて猛省を促したい。三菱自動車の相川社長からは経団連の常任幹事退任の申し出があり、了承した。経団連としては、会員企業に対して、引き続き企業行動憲章の遵守を周知徹底していきたい。