一般社団法人 日本経済団体連合会
【地方創生】
地方創生のために重要なことは、各地域が中長期的な視点で、どのような地域づくりを目指していくのかを主体的に考えることである。そのうえで、各地域の特性、資源、産業、自然、歴史、文化などを生かした戦略を策定し、実践していくことが求められる。経団連としても意欲的で挑戦的な地域の取り組みを様々な形で後押ししていく。
経団連は昨年9月に「地方創生に向けた経団連アクションプログラム」を策定し、地域経済活性化推進委員会を中心に活動している。具体的には、企業の地方拠点の強化や大企業の人材の地方への還流などに取り組んでいる。地方では人材が不足しており、大企業の現役社員やOB・OGを派遣することは有効である。さらに、地方限定の転勤のない雇用など様々な雇用形態での地方採用を進めていく。加えて、地方における起業を支援していく。
九州に関しては、経団連は高島福岡市長が会長を務める「スタートアップ都市推進協議会」との間で、ベンチャー企業と首都圏の大企業との出会い・交流の場を設けようと、昨年5月に共同声明を取りまとめた。九経連とも2013年から毎年、東京で「企業による農業参入セミナー」を共催している。
このように、様々な切り口から地方創生を支援している。非常に重要な課題であると認識しており、引き続き取り組んでいきたい。
【春季労使交渉】
日本経済の最重要課題は、デフレ脱却と経済再生の実現であり、経済の好循環を回していかなければならない。このためには、賃金引上げを通じて、消費を喚起する環境を整備することが必要であり、賃金引上げへの社会的な要請があると受け止めている。過去2年間、経済界は独自の判断として、率先して賃金引上げに取り組んでおり、今年の経労委報告においても、収益が拡大した企業には、年収ベースでの昨年を上回る賃金引上げに前向きかつ踏み込んだ検討をしてほしいとの方向性を打ち出している。今まさに、各社で労使交渉が行われているが、経団連としても、積極的かつ前向きな賃金引上げを様々な場を通じて訴えてきた。史上最高益を記録した企業が多く出ているように企業業績は非常に堅調であり、前向きな結果が出ることを期待している。
国際的な金融資本市場の動向が不安定になっているが、先日のG20においても、現在の金融資本市場の動きは実体経済と直接関係がないことが明確に示されている。足元の動向に動揺することなく、自社の成長性を信じ、思い切った前向きの回答を出してほしい。
賃金引き上げの中身については、各社の実態に合わせて、ベースアップや定昇、賞与、手当など総合的に対応してもらいたい。
【TPPと農業】
TPPは日本の農業全体に大きな打撃を与えるとの指摘があるが、全体としてはTPPを通じて、九州に限らず日本全体の農水畜産品を海外市場に展開していくチャンスが拡大すると思う。とりわけ九州は、宮崎県を含めて畜産品の生産額は全国でも大きく、農業先進地域である。牛肉や豚肉は、関税撤廃による輸出拡大が見込まれており、ビジネスチャンスの拡大と捉えることができる。本日マンゴー農園を視察したが、マンゴーは国内市場に留まらず、香港市場でも飛ぶように売れていると聞いており、野菜や果物にとってもチャンスは大きい。高品質を誇る九州の農水畜産品には大きな可能性がある。
こうした動きを一層促進していくためには、販売・輸出、生産、物流・加工、経営など様々な分野で経済界と農業界が連携し、農業のさらなる競争力強化や成長産業化を図ることが重要である。現在、経団連とJAの間で連携強化に向けたプラットフォームを立ち上げ、提携プロジェクトを創出すべく、20件の案件で検討を進めている。農業の競争力強化と成長産業化に向けて、経済界としても全面的に支援していきたい。
先日の国家戦略特区諮問会議において、兵庫県養父市で5年の時限的な条件の下、企業による農地所有に向けた規制緩和の方向性が示された。これを心強く思っており、養父市の特区にとどまらず、その成果を踏まえて、早期に全国に展開してほしい。
TPPに関しては、各国による批准が待たれる。とりわけ、米国の批准は発効の必要条件である。昨年の訪米ミッションにおいてもフロマン通商代表ほかから、批准プロセスの重要性について指摘があった。まさに今そうした状況にある。経団連としても、日本の経済界の立場から、米国の政界、経済界に対して、TPPは世界経済の発展に必要であり、米国経済にとってもプラスであると訴えていく。各州の有力政治家にもそうした主張を行っていく。
【消費増税】
消費税率の10%への引上げは2017年4月に予定通り行うべきである。これは社会保障の安定と充実、財政健全化を着実に実現していくために絶対に必要である。ただ、5%から8%に引き上げた際、駆け込み需要後の消費の反動減に苦しみ、消費はいまだ完全には戻ってきていない。こうした事態を再び招いてはならない。今のうちに消費増税に耐えうる経済の地力、底力をつけていくことが必要である。
短期的な施策としては、冷え込んだ消費を上向かせるための消費喚起策が必要であり、中長期的な施策としては、経済の地力や底力を高めるための成長戦略の策定と実行である。先日のG20でも各国が成長戦略を最優先で実行することの必要性がうたわれている。短期と中期の二つの施策をきちんと実施したうえで、予定通り消費税率を引き上げるべきである。
現在の経済情勢がリーマンショック並みかどうかということについては、実体経済を反映したものではないと見ている。金融市場が不安定な動きとなっているが、これは過剰反応である。実体経済のファンダメンタルズは全く毀損していない。
ただし、あまり株価が下落し、為替が円高に振れる状況が続けば、国民や企業のマインドが冷え込み、為替も企業業績に影響することから、実体経済への影響は皆無とは言えない。ただ、G20で断固たる声明が出され、各国がしっかり対応していく方向性が示されており、経済は正常な姿に戻っていくと期待したい。こうして経済情勢が改善していけば、消費税の引上げが再延期されることはないだろうし、そうしてはならないと思っている。