一般社団法人 日本経済団体連合会
1.はじめに
(1)今回の規制的措置の目的は、物流の持続的成長を図るためにトラックドライバーの荷待ち時間と荷役等時間の総時間を短縮させることである。荷主としては、その目的を達成するために最大限努力することが必要である。その際、荷主の事業実態を踏まえ、業務負担ができるだけ少ない方法を選択すべきである。
(2)本改正法成立前から物流効率化に真摯に取り組んできた荷主や、各業界の自主行動計画に基づき既に実効性のある取り組みを実施している事業者も多く存在する。先行して努力してきた事業者が不利な扱いを受けないような制度設計を目指すべきである。
(3)制度設計の際には、自主行動計画に記載された各業界の特殊事情を考慮した内容とすべきである。
2.基本方針について
(1)今回の規制的措置に適切に対応するためには、荷主事業者は設備投資が必要になる。政府は、補助金や減税等を含めた荷主事業者への支援を考える必要がある。
(2)今回の規制的措置について知らない事業者もまだ多く存在するため、政府は改正物流効率化法について、国民へ広く周知すべきである。
(3)基本方針は、個別指標や判断基準だけが目的化しないように各論ではなく推進意義や大枠の目標を周知する位置づけとすべきである。荷待・荷役等時間の短縮や積載効率の向上については、作業員等の安全と一定程度トレードオフであることを踏まえ、数値の達成だけが評価され、作業員の安全が疎かにならないよう工夫すべきである。
3.判断基準について
(1)トラックドライバーに荷役等を行ってもらっているケースは存在する。ただし、トラックドライバーに荷役等をお願いする場合には、正当な対価を支払うことが前提となる。
(2)トラック予約受付システムの導入は任意とすべきである。多頻度で荷物を出荷・入荷している事業者においては、トラック予約受付システムやバース予約受付システムを活用している事業者も存在する。しかし、荷物の出荷・入荷の頻度が比較的少ない事業者においては、当該システムを活用しなくても長時間の荷待ちが発生していない事業者も存在する。
(3)事業者側で消費者由来の繁閑差をコントロールすることは難しい。繁閑差平準化に係る好事例については、政府が積極的に広報することとしてはどうか。
(4)「官民物流標準化懇談会パレット標準化推進分科会の最終とりまとめ」で整理されている通り、標準仕様パレットの導入が当分の間困難なケースが存在する(製品の特性上、標準仕様パレットを活用できない場合や、既に業界標準となるパレットの規格・運用が存在し、相当数の物量で効率的な一貫パレチゼーションを実現できているケース)ことを念頭に、「官民物流標準化懇談会パレット標準化推進分科会の最終とりまとめ」と平仄の合った判断基準とすべきである。
4.判断基準における業界の特殊事情について
(1)業界によって荷待ち時間と荷役等時間の総時間を2時間以内にできない特殊事情や、積載効率を向上できない特殊事情が多々存在する。業界の特殊性を配慮した判断基準とすべきである(前提として、当該特殊事情によって生じた荷待ち・荷役等時間に係る対価は補償している)。
【事例】
(医薬品)到着地において荷物のサンプリング検査が発生。当該検査が完了しないと荷卸しが開始できない。
(化学・石油)タンクローリーで粘度の高い液体等を荷卸しする場合。安全上や物理的な理由で荷卸しに時間がかかる。
(鉄鋼・重機)重い荷物をクレーンで持ち上げる際に、重心を見極め、ワイヤーロープを掛けたり外したりする作業(玉掛け作業)が発生する荷卸しにおいて、安全性の観点から荷卸しに時間がかかる。
(小売)大物家電・家具等、荷積・荷下ろしに際してパレットやロールボックスを使用できない場合。効率化のための機器が採用できず、安全面も考慮すると、荷役作業に時間がかかる。
(建築)建設現場が極小地の場合など、現場の事情によって荷卸しで時間がかかる。
(石油)燃料油の配送に関して、需要家サイドでの荷卸し後の復路は必然的に空荷とならざるを得ず、積載効率の向上が難しい。
(精密機器)精密機器の配送で、安全や品質保証の観点から積載効率向上や荷卸しの時間短縮が難しい場合。
(2)災害発生時には特殊な運用が必要となる。平時から災害発生時の運用について検討しておくべきである。
5.判断基準の「このほか」の事項について
(1)社会全体の課題として、トラック輸送への負荷を減らしていくための商習慣の改善を政府が促していくことも重要である。例えば、商品自体に問題ない場合であっても、段ボール等外装の汚れや傷だけを理由に、着荷主が発荷主に商品を返送する商慣行が一部で存在するが、こうした商習慣の改善を荷主の判断基準等に明記すべきである。
(2)基本方針の実効性を確保する取り組みとして、荷主事業者と運送事業者が日頃からコミュニケーションを取るなど双方の連携を促すことも追記すべきである。問題が生じた場合に双方でコミュニケーションを取り、円滑に解決していく仕組み作りとなる。
6.判断基準の「解説書」について
(1)荷待ち時間と荷役等時間の短縮のため、荷主事業者が直接トラックドライバーとコミュニケーションを行う場合、その行為が偽装請負と認定されるリスクがある。解説書には、偽装請負とならない荷待ち・荷役等時間の短縮のための荷主とトラックドライバーとのコミュニケーション事例を示すべきである。
7.判断基準の各項目(取組例)における、実施状況の定量的な把握について
(1)業種業態によって定量的な把握が難しい業種も存在する。
(2)積載効率の把握については、最大積載量がトラック毎に異なるため、荷主単独では正確な積載効率の把握が難しいという事情も考慮すべきである(たとえば、同じ4tトラックであってもパワーゲートの有無などで最大積載量が異なる)。
8.自社の輸送重量の把握について
(1)発荷主の場合、出荷数量と製品重量を用いた計算式等を用いて輸送重量を算出することは可能である。
(2)一方、着荷主の場合、都度重量を計測する設備が必要になる等、設備投資が必要になる。とりわけ、第二種着荷主の場合には、輸送事業者との間に直接的な契約も存在しないことから、重量の把握は難しい。
9.「荷待ち時間」・「荷役等時間」の算定方法について
(1)計測開始時刻と計測完了時刻を、それぞれ入構時刻と出構時刻とし、「荷待ち時間」と「荷役等時間」を分割せずに合算して計測する運用としてはどうか。「荷待ち時間」の計測開始時間を指示時刻とするケースは、トラック予約受付システムを導入している事業者を前提としている。しかし、荷主事業者の中には、当該システム等を導入せずに、特段問題が発生していない荷主事業者も存在する。また、システムを導入している事業者であっても、輸送事業者が指定時刻から早く到着することや、遅れて到着するケースも存在するため、指示時刻基準で計測することは必ずしも適切ではない。
(2)入構時間と出構時間で計測する場合、入構時に都度トラックドライバーが紙台帳に記帳するなどのアナログ業務のデジタル化を促すべきである。
(3)輸送事業者が持っているデジタルタコグラフの運行データは、荷待ち時間と荷役等時間の計測の1つの解決策になるが、当該データの荷主事業者側へのデータ共有のしくみ等を考える必要がある。
(4)1つの事業所内において、1回の運送で複数施設を回って貨物の積み込み又は積み下ろし等を行う場合の計測については、現実的には難しく、事業所全体を1施設として計測することも可能とすべきである。
10.「荷待ち時間」・「荷役等時間」の全数計測について
(1)全数計測はコストが高すぎるため現実的には難しい。一部を抜き出して調査することで全体を推定するサンプル調査形式を基本とすべきである。統計学的にも、サンプル調査で全数調査とほぼ変わらない調査結果を推定することができる。
(2)サンプリングの手法については、各業界の実態も確認した上で、国がガイドライン等で大まかな指針を示すべきである。その際、荷主事業者の負担ができるだけ少なくなるように制度設計すべきである。
11.寄託倉庫における「荷待ち時間」「荷役等時間」の計測について
(1)寄託倉庫に搬入する貨物について、自社の分だけ切り分けて荷待ち・荷役時間を計測することは、荷主事業者単独では不可能である。
(2)「荷待ち時間」「荷役等時間」の短縮には寄託倉庫事業者、物流事業者の協力が必要となる。
12.特定荷主に選任が義務づけられるCL0の業務内容について
(1)CLOは、定期報告をするだけの役職ではなく、各事業者内において、物流に過度に負荷をかけないように営業部門や製造部門等、社内で適切に利害調整ができる役職者の選任を推奨すべきである。
13.調査公表や評価制度について
(1)(改正法第71条に基づくアンケート調査による調査・公表)好事例があった場合には、積極的に事業者に共有すべきである。また、点数の高い者・低い者も含め公表するとあるが、低い者の事業者名を公表する場合には、事実確認をしっかり行った上で、荷主事業者と物流事業者の双方にとって公平・公正となるように運用すべきである。
(2)(省エネ法を参考にした評価・公表制度)企業の行動変容を促すものとして運用され、ベストプラクティスを幅広く共有するといった枠組みで実施することを期待する。
14.その他
(1)定期報告については、オンラインでの提出を前提とするなど、報告コストが低くなるように運用すべきである。
(2)定期報告において、省エネ法の「認定管理統括荷主の認定制度」を採用し、希望すれば親会社がグループ会社の報告を一体的に担える仕組みを導入すべきである。また、CLOの選任についても、同様の仕組みを検討してはどうか。
(3)定期報告で計測対象となる「特定荷主自身が管理する施設」について以下の場合は除外すべきである。
【対象施設から除外すべき事例】
(小売業)自社管理施設ではあるが、倉庫登録がない荷物の積み替えに特化した施設(いわゆるトランスファーセンター)。
(業種に関係なく)オフィスで使う備品等を宅配便等で受領するだけの施設。