一般社団法人 日本経済団体連合会
金融・資本市場委員会
ESG情報開示戦略タスクフォース
サステナビリティ基準委員会(SSBJ)御中
サステナビリティ開示ユニバーサル基準公開草案「サステナビリティ開示基準の適用(案)」、サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第1号「一般開示基準(案)」及び、サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第2号「気候関連開示基準(案)」(以下、公開草案)へのパブリックコメントの機会に感謝する。以下の通り回答する。
【 質問1:開発にあたっての基本的な方針 】
本公開草案の開発にあたっての基本的な方針に関する提案に同意しますか。同意しない場合には、その理由をご記載ください。また、国際的な基準との整合性を図る程度及びその方法についてどのように考えますか。理由とともにご記載ください。
開発にあたっての基本的な方針に同意する。
国際的な比較可能性の観点から、原則として国際的な基準の定めを取り入れるものの、相応の理由がある場合は無条件で定めを取り入れることはしない、との方針は合理的である。わが国独自の状況を勘案して国際的な基準の定めを修正した「選択肢」を準備し適用可能とする対応が適切と考える。
SSBJ基準が国際的な基準と同等レベルの水準であると国際的に認知・受容されることは極めて重要であり、なるべく多くの「選択肢」についても国際的な基準と同等レベルの水準である旨や、実務における二重作業回避の重要性について、ISSBや各国当局等に理解してもらえるようにSSBJは働きかけを継続して行うべきである。
複数の開示方法が認められる場合は、各ステークホルダーが、国際的な基準との同等性が確保された開示方法と、我が国独自の状況を勘案し策定した開示方法とを明確に区別して識別できるようにする必要がある。その上で各企業がそれぞれの実務の実態に応じて適用する選択肢を判断できるような基準整備を目指すべきである。
【 質問2:SASBスタンダード」及び「産業別ガイダンス」の取扱 】
「ガイダンスの情報源」における「SASB スタンダード」及び「産業別ガイダンス」の取扱いに関する提案に同意しますか。同意しない場合には、その理由をご記載ください。
国際的比較可能性の観点より、本提案に概ね同意する。
ただし、「SASBスタンダード」及び「産業別ガイダンス」については、元々北米基準であり国際基準への適合が十分検討されているとは想定されず、少なくとも本基準適用時点においては日本側の意見が十分に反映されていないとも考える。このような状況下では、各企業が適用可能性を考慮した結果、適用しないという判断が実務において多くなされることも想定し得る。
各企業が考慮した結果、実質的に適用せざるを得ない運用となってしまうのではなく、合理的な判断であれば、企業の実務負荷を過度に強いることなく、実質的にも「適用しない」を選択できる運用にすることは必要不可欠である。
また、「参照し、その適用可能性を考慮しなければならない」の実務におけるレベル感にも配慮が必要である。基準・ガイダンス等で要求事項を詳細に定めすぎる事で、諸外国に比し実務負荷が過度にあがることを懸念する。諸外国も含め、最新の業界スタンダードや実務の動向もみながら慎重に検討すべきである。
【 質問3:温室効果ガス排出量の合計値 】
スコープ 1、スコープ 2 及びスコープ 3 の温室効果ガス排出量の合計値に関する提案に同意しますか。同意しない場合には、その理由をご記載ください。
そもそもスコープ3の排出量の開示については、金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ(WG)」におけるSSBJ基準の適用対象の議論や、米国の動向等も踏まえつつ、SSBJ基準において本当に一律で義務付けるべきか否か、費用対効果の観点を踏まえて十分に検討すべきである。WGにおいては、将来的にSSBJ基準の適用を(時価総額に限らず)プライム上場の全企業に義務付ける方向性や、スタンダード市場やグロース市場の上場企業にも任意適用を促す旨なども議論されている。仮にこれらの企業にもSSBJ基準の適用を義務付ける、あるいは任意適用を促すのであれば、提案のスコープ3の開示がコストに見合わない過度な開示要求となるケースも多々発生すると想定される。スコープ3の開示を義務付けないSSBJ基準固有の定めを選択肢として準備することも考えられる。
仮にスコープ3の開示を行う場合でも、以下の理由により本提案に同意しない。
- 算定精度・信頼性等のレベルが異なるスコープ3をスコープ1・2と単純合計した数値に有用性はなく、スコープ1・2・3の合計値だけが独り歩きすることで、却って投資家をミスリードする値となるリスクが高い。
- スコープ1・2とスコープ3ではデータのマネジメントのレベル感も異なる。スコープ3は自社のマネジメントが効かない・効きづらい領域も多く、単純にスコープ1・2・3を合計することで、自社努力による削減量が見えづらくなる。
- 仮に合計値を必要とする投資家が一部存在するということであれば、投資家が自ら簡単に合計することが可能である。
【 質問4:温対法に基づく温室効果ガス排出量の報告 】
温対法に基づく温室効果ガス排出量の報告に関する提案に同意しますか。同意しない場合には、その理由をご記載ください。
会計期間とサステナビリティ情報の報告期間は完全に一致していることが望ましいものの、以下の理由により本提案に同意する。
- 有報開示(3月決算会社の場合は6月)までに前年度の温室効果ガス排出量を取り纏めることは実務上難しく、温対法に基づく温室効果ガス排出量の開示を可能とすべき。
- 報告期間の差異については、実績が確定したところで(法定書類ではないものの)企業のウェブサイト等で開示することも可能であり、差異の縮小に向けた具体的な取り組みも可能と考える。
IFRS S2号の開示と温対法に基づく報告に加えて、GXリーグ参加企業には別途開示が求められることから、3つの制度の細かな違いによる重複作業の負荷を減らすことが望ましい。投資家にとっても同様の数値が複数開示されることは効率的な意思決定判断を阻害する可能性がある。報告企業の負担軽減は、制度の浸透を図り、開示のレベルアップを行う上で重要である。一括した算定・報告・公表が可能となるよう、制度間での協調に向けてSSBJからも関係省庁へ働きかけることを期待する。例えば、温対法・GXリーグでGHGプロトコルのデータも活用できる制度設計を目指す事が効果的と考える。
【 質問5:温室効果ガス排出におけるロケーション基準とマーケット基準】
スコープ 2 温室効果ガス排出におけるロケーション基準とマーケット基準に関する提案に同意しますか。同意しない場合には、その理由をご記載ください。
本提案に同意しない。温対法やGXリーグなど、わが国における実務の現状を踏まえると、ロケーション基準とマーケット基準の選択適用(双方開示することも可能)が適切ではないか。ロケーション基準での開示をすべての企業に一律で強制適用とすることは適切ではない。
なお、「契約証書に関する情報」については、開示要求事項をより具体的に示すべきである。ただし、契約管理も事業体により様々で、各子会社の自律的な管理に依拠するところが多く、契約書等も様々であることが予想され、内容等の開示はほぼ不可能と考える。そのため、契約証書を有している場合であっても任意開示とすべきである。
【 質問6:スコープ 3 温室効果ガス排出の絶対総量の開示における重要性の判断】
スコープ 3 温室効果ガス排出の絶対総量の開示における重要性の判断の適用に関する提案に同意しますか。同意しない場合には、その理由をご記載ください。
まずは、質問3において言及した通り、スコープ3の開示については、そもそも開示しないという選択肢を設けることも含めて、米国など諸外国の動向も見据えつつ継続的に検討すべきである。
スコープ3のGHG排出量を開示する場合の重要性判断については、定量的・定性的双方の判断が可能とすべき旨を基準上明記することが必要ではないか。その上で、特段の定量的な閾値を設けるのではなく、各企業の定量的・定性的双方の観点からの判断に委ねるべきである。
【 質問7:産業横断的指標等(気候関連のリスク及び機会)】
産業横断的指標等(気候関連のリスク及び機会)に関する提案に同意しますか。同意しない場合には、その理由をご記載ください。
本提案に同意しない。国際的な比較可能性の観点からは、定量情報の開示を必須とすることが理想ではあるが、TCFD提言に基づく開示を行っている企業においても定量的な開示が進んでいない現状を踏まえると、定量情報の開示を一律に求めるのではなく、定性情報で開示できる選択肢を設けることは重要である。
「脆弱な資産」や「規模」等の定義が不明確な用語もあり、実務において混乱を引き起こす可能性が高い。特に「規模に関する情報」については、定性情報による開示を意識した選択肢である旨がBC171にて示唆されているが、実務上の理解を深めるためにも、開示要求事項として定めるのであれば、基準本文で明確に定義付けを行った上で、ガイダンス等の充実を図るべきである。
仮に定量情報の開示を求めるのであれば、将来的な開示、保証の制度化等、実務の事情も考慮した上で、一定期間の開示を免除とする経過措置を設定すべきである。
【 質問8:産業横断的指標等(資本投下)】
産業横断的指標等(資本投下)に関する提案に同意しますか。同意しない場合には、その理由をご記載ください。
本提案に同意しない。一律に開示要求事項として整理するのではなく、任意開示事項として整理することが適切ではないか。
資本投下の金額規模やその重要性は産業特性やビジネスモデルによって大きく異なることから、産業横断的指標として開示することは不適切であり、企業間比較のための情報としての有用性も乏しい。資本投下等の指標の数字のみが比較されると、その数字の背景にある企業戦略や考え方が理解されず、正当な評価が得られないことも懸念する。
そもそも「資本投下」の定義が曖昧であり、実務において混乱を引き起こす可能性が高い。開示要求事項として定めるのであれば、利用者ニーズと実務負荷のバランスにつき十分に議論した上で、開示すべき情報を基準本文で明確に定義付けを行い、ガイダンス等の充実を図るべきである。
仮に定量情報の開示を求めるのであれば、将来的な開示や保証の制度化等の議論を踏まえつつ、実務の事情も考慮して一定期間の開示を免除とする経過措置を設定すべきである。
【 質問9:産業横断的指標等(内部炭素価格)】
産業横断的指標等(内部炭素価格)に関する提案に同意しますか。同意しない場合には、その理由をご記載ください。
本提案に同意しない。内部炭素価格の定量的な開示は、少なくとも一律に要求事項として開示を義務付けるべきではなく、任意開示の位置づけとすべきである。
内部炭素価格は業種等によって大きく異なるものであり、企業間で画一的に比較されると、企業の取り組みが歪められてしまう恐れがある。また、内部炭素価格は企業内の管理会計としての意味合いも強く、商業上の機密情報としての性格を有するケースも多いため、開示要求事項として定めるのは適切ではない。
【 質問10:経過措置 】
経過措置に関する提案に同意しますか。同意しない場合には、その理由をご記載ください。
本提案に同意する。
それぞれの経過措置については、発展途上であるサステナビリティ情報に関する収集実務の実態を考慮したものとなっている。また、利用者による当該情報の意思決定判断へのあるべき活用方法についても発展途上・未成熟と想定される。
そのため、経過措置に追加すべき項目(短期/中期/長期の将来における財務的影響など、不確実性の高い定量情報の開示等)の有無や適用時期については、セーフハーバー・ルールの整備状況や、諸外国を含む実務の動向も踏まえて、本基準の最終化までの過程において継続して検討すべきである。
【 質問11:その他】
その他、本公開草案に関して、ご意見がありましたら、ご記載ください。なお、本公開草案の定めに関するご意見の場合、適用基準案、一般基準案又は気候基準案のいずれに対するご意見なのか、また、どの項番号に関するご意見なのかを明確にご記載ください。
財務情報とサステナビリティ情報の同時報告については、日本の報告制度の実情も踏まえて、実践可能な制度設計となるよう基準の最終化の際は調整頂きたい。現行制度化において、企業の自助努力のみで今後の保証業務まで含めて同時報告を実現することは不可能であり現実的ではない。
今回提案された基準案においては、理解が難しい用語や文章が多い。今後、わが国におけるサステナビリティ情報開示制度の実効性を高めるためにも、わかりやすい基準の整備、実務指針やガイダンス、設例、解説書等の充実が必須と考える。
実務においては、基準案で求められている報告が難しいケースも想定し得る。情報開示の義務付けの免除規定についても、実務の現状を踏まえて追加・拡充をお願いしたい。例えば、気候基準においてGHG排出量の開示が求められているが、企業買収等によって期中にバウンダリーの変更があった場合、当該被買収企業がGHG排出量の算定を行っていなければ、会計の連結と同一のタイミングで算定対象に含めることは実務的に不可能であり、会計上の連結対象と一致させることはできない。第三者保証の取得も求められる流れも考慮して、企業の実務負荷や実践可能性を十分に考慮した規定として整備すべきである。
気候基準案第76項、BC157~158項にて、「ある部分」と曖昧な表現がなされているが「各カテゴリー」等、明確な表現にすべき。また、「~と判断する稀な場合」とあるが、「稀な」という表現は削除すべき。GHGプロトコルScope3基準(2011)も定められるとおり、特に川上分野産業における下流カテゴリーは必ずしも「稀な」場合ではない。
< GHGプロトコルScope3基準(2011)- 6.4 (下流側排出量のカウント) >
「企業は潜在的に下流側で多くの用途を持った中間製品であって、それぞれが異なる GHG 排出パターンを有し、その中間製品の様々な末端利用に付随する下流側排出量を合理的に見積もることができないようなものを製造しているかもしれない。そのような場合には、企業は、報告書においてカテゴリー9,10、11と12からの下流側排出量の除外を開示し正当化することができる」企業が、気候基準案第53項、54項(温対法に基づく温室効果ガス排出量の報告)の規定を適用する場合、Scope3の計算年度も温対法と同様の計算年度のものを開示可能とすべきであり、その旨を基準上も明記すべき。Scope1およびScope2については温対法の計算年度、Scope3のみGHGプロトコルの計算年度で企業側に開示を求めるとなれば、企業側の実務負荷は実質的にあまり軽減されず、本規定の設定趣旨である実務負荷の軽減が達成できない。