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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2025年4月10日 No.3679 エラードWTO事務局次長と懇談 -通商政策委員会

エラード氏(左)と十倉会長

エラード氏

経団連(十倉雅和会長)の通商政策委員会(兵頭誠之委員長、吉田憲一郎委員長、早川茂委員長)は3月11日、世界貿易機関(WTO)のアンジェラ・エラード事務局次長の来日の機会を捉え、東京・大手町の経団連会館で懇談会を開催した。会合に先立ち、十倉会長とも面会した。エラード氏の発言の概要は次のとおり。

■ 多角的貿易体制を巡る現状

WTOを中核とする多角的貿易体制は戦後、世界経済の発展および貧困削減に貢献してきた。WTOは世界貿易の8割をカバーしている。WTOのルールは関税だけでなく、サービス、基準、貿易円滑化、そして知的財産にも適用される。

現在、関税政策やそれに対する報復措置が数日、時には数時間で発表されており、不確実性が高まっている。この不確実な環境は、国境を越えて事業を展開する企業にも影響を及ぼしている。WTOメンバーが行動を起こすか否かを判断する際には、国際貿易システム全体への長期的な影響を考慮し、冷静に対応することが必要である。

WTOの調査では、米国と中国の二つの経済圏への分断は、世界のGDPに2桁台の大きな損失を与えると見込まれる。現代の経済的課題に取り組み、メンバーの懸念に対処するためにWTO改革を進めることが必要である。

政策やビジネス上の決定を行う際には、コンテクストが重要である。この観点から、経済的相互依存が危険かどうかよりも、特定の重要な製品について、集中したサプライチェーンに過度に依存することによる結果の方が問題だろう。解決策は、デカップリングではなく、サプライチェーンの多様化による「リ・グローバリゼーション」を進めることにある。

われわれは今日、大きな岐路に立っている。ルールに基づく貿易体制の恩恵を継続するためには、WTOへの支持が不可欠である。WTOがその改革と近代化により、引き続きグローバルビジネスにおける安全性と予見可能性を確保する守護者として機能できるかは、WTOメンバーにかかっている。

■ WTOが取り組む優先課題

WTOは、166の加盟国・地域によるコンセンサス形式により運営されている。そのため、意思決定を行うことが課題になっている。WTO改革を進めるために、2026年2月に開催が予定されている第14回閣僚会議(MC14)に向けて、優先順位をつけて取り組むことが必要である。

第一に、22年に合意した漁業補助金協定であり、全加盟国の3分の2の批准を得て25年夏までの発効を目指したい。また、過剰漁業能力および過剰漁獲につながる補助金への追加的な規律についても交渉に取り組んでいる。多国間交渉における成功例として示すためにも重要である。

第二に、上級委員会が機能停止している紛争解決制度を改革し、全加盟国にとって意味のあるものにすることである。

第三に、貿易と農業に関する交渉の道筋を見つけることである。

第四に、有志国間で合意した複数国間の協定(開発のための投資円滑化協定ならびに電子商取引協定)をWTO協定に組み込むことである。現在、一部の国が多国間主義への影響を理由に反対しているが、複数国間の協定はWTO協定でも認められており、多国間主義の概念と共存するものである。また、電子送信への関税不賦課を延長できるかどうかも重要な論点である。

最後に、貿易と環境について、各国がさまざまな気候変動対策を展開するなか、WTOがどのように機能すべきか議論している。日本は官民共に多角的貿易体制の心強い擁護者であり、WTOの改革に向けて主導的な役割を果たしている。

【国際経済本部】

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