経団連(十倉雅和会長)は4月16日、提言「バイオトランスフォーメーション(BX)実現のための重要施策」を公表した。概要は次のとおり。
1.はじめに
バイオエコノミーは、脱炭素や食料安全保障など社会課題の解決に貢献する循環型の経済社会である。経団連は2023年3月、提言「バイオトランスフォーメーション(BX)戦略」を公表した。同提言を踏まえ、24年6月公表予定の政府の次期バイオ戦略に向けて、とりわけ重要な施策について提言する。
2.国内外の動向
国内では22年に引き続き、「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太方針2023)においてバイオが重点分野として取り上げられた。一方、米国や欧州、中国、シンガポールなど世界各国・地域でも取り組みが加速しており、国際競争は激化の一途にある。
3.分野横断的な重要施策
(1)課題オリエンテッドなロードマップの策定
現在の政府のバイオロードマップは技術や市場の区分で描かれており、バイオエコノミーが解決する社会課題との関係が不明瞭である。また、目標が2030年までと短期に設定されており、投資対効果の予見可能性が低い。
そこで、2040年や2050年など長期をターゲットに、わが国のあるべき姿からバックキャストする「課題オリエンテッドな」ロードマップを策定すべきである。
(2)サプライチェーンの可視化・強靭化
半導体と同様、経済安全保障の観点に立ち、原材料の確保から輸送、貯蔵、製造を経て市場に至るまでのサプライチェーンを可視化したうえで、その強靭化を図るべきである。
(3)基礎研究から事業化・普及に至るパスの強化
ディープテックであるバイオは技術開発に加えて資金調達や国民理解など課題が山積している。
そこで、短期的には、①バイオコミュニティ活性化のための財政支援②ディープテック・スタートアップの育成③人材の育成・確保④グローバルなルール形成、中長期的には、⑤バイオデータ基盤整備⑥国内製造基盤の構築・拡充⑦国民理解の醸成――に取り組むことが重要である。
(4)バイオ戦略推進体制の強化
骨太方針2023に掲げられた宇宙開発や健康・医療と比較して、バイオは政府の推進体制の整備が不十分である。事務局を増強・整備し予算権限を付与すべきである。
4.適用分野別の重要施策
(1)ホワイトバイオ(工業・エネルギー)
化石燃料由来製品とのコストギャップが普及の足かせとなっている。バイオ製品の環境価値を経済価値へと転換するルールの整備等を通じた「バイオ製品を受け入れる市場の形成」、国産木質バイオマスの確保・活用に関する計画策定等を通じた「原材料の確保」が重要である。
(2)グリーンバイオ(食料・植物)
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)における培養肉の試食をターゲットとする「細胞性食品等の国内上市環境整備」のほか、「細胞性食品のグローバル市場形成支援」や「国産木質バイオマス資源の利用促進・循環加速」を求める。
(3)レッドバイオ(健康・医療)
企業側がリスクテークに見合うリターンを得て、次の投資に還元できるような「多様なイノベーションの適切な評価」のほか、「創薬力強化に向けたメリハリある研究開発体制」や「迅速かつ効率的な治験実施体制の強化」が重要である。
5.産業界のコミットメント
バイオによる社会課題解決と経済成長の実現に向けて、高い目標を掲げ、具体的なアクションに着手している企業も多い。経団連も、ディープテック・スタートアップに関する政策提言やバイオ分野の国際標準戦略の推進等に取り組む。
6.おわりに
BXは経団連の目指す「サステイナブルな資本主義」実現のカギである。経団連は、政府、アカデミア、スタートアップ等のステークホルダーと共にBX実現に向けて注力する。
【産業技術本部】