経団連は2月8日、東京・大手町の経団連会館で経済財政委員会(柄澤康喜委員長、鈴木伸弥委員長)を開催した。慶應義塾大学総合政策学部の白井さゆり教授から、日本のマクロ経済運営の課題について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 世界経済の見通し
世界の消費者物価指数(総合)の伸び率は2022年以降大きく上昇したが、このところ順調に下がり、主要国では前年同月比3%台まで、日本は23年12月に同2.6%まで落ち着いている。今後、世界的にインフレ率は下がっていく見込みである。
各国の中央銀行は、これまで欧州・米国が利上げ、中国は利下げを実施してきた。現在の円安は日本と他国の金利差によるものだが、想定通り24年に米国連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)が利下げすれば、状況は変わるだろう。
米国経済は、24年前半に商業不動産の低迷で減速するが、後半に持ち直す。欧州経済は厳しく、低成長の継続や失業率の悪化、財政規律の行方などの課題を抱えるなか、利上げの影響が出てくる。日本経済は、年末にかけてインフレ率が低下する見込みである。
■ 日本経済と金融政策の見通し
日本はユニークで恵まれている国だと考える。政府債務残高の対GDP比は260%と高く、その約54%を日本銀行が保有しているが、財政危機には陥っていない。日銀の大量国債保有に対する国内外の市場参加者による懸念も耳にしない。これまでの低インフレと債権国であることが理由ではないか。
日本経済は、実質でみると消費と賃金が低迷している。物価上昇は7割が食料なので、インバウンド需要を除けば基本はコストプッシュインフレであり、持続的なものではない。
日銀の植田和男総裁から、金融政策の正常化について前向きな発言が増えてきた。金融緩和の目的が2%インフレの安定的実現と明確に掲げている以上、正常化は難易度が高く、タイミングも難しい。市場参加者の多くは、インフレ率の低下やFRBの利下げを見込んで24年3月もしくは4月と予想するが、事前予告の必要性、春季労使交渉の結果を4月の毎月勤労統計(6月公表)である程度確認できること、過去25年間の非伝統的金融政策に関する「多角的レビュー」を終えるタイミング――を踏まえると、理にかなう時期は7月ではないかと考える。金融政策を変更した後も、日本経済の弱さを考えると大きな利上げはないだろう。
■ 今後の長期金利と財政運営
今後、先進国では財政悪化を反映して長期金利が上昇しやすい環境になると世界の多くの有識者や国際機関が警告を鳴らしている。日本もそれに加えて、シニア層の離職による貯蓄取り崩しをはじめ、地政学リスクやグリーントランスフォーメーション(GX)投資など諸課題に対応した投資増加により、自然利子率(景気に中立的な実質利子率)が上昇していく。
日本は、健全な財政運営に向け、どうすべきか。世界最速の高齢化は、シニア層の増加による歳出増と、労働人口の減少による歳入減をもたらす。女性や高齢者の労働参加率を引き上げるべきとの声が多いが、先進国のなかで日本のそれはすでにかなり高くなっている。放置すれば財政収支は悪化する見通しである。金利のある世界も意識し、必要となる恒久的な歳出には恒久的な財源を充てるべきである。
【経済政策本部】