経団連は2月20日、「博士人材と女性理工系人材の育成・活躍に向けた提言」を公表した。国際的な人材獲得競争が加速するなか、イノベーション創出に向けて、高度専門人材の育成・獲得・活用が極めて重要である。経団連として、高度専門人材である博士人材と、女性理工系人材の育成・活躍を真正面から初めて取り上げ、主要会員企業を対象に実施した「博士人材と女性理工系人材の育成・活躍に関するアンケート」の結果も盛り込みつつ、提言をとりまとめた。概要は次のとおり。
■ 博士人材の育成・活躍を推進する意義と目指すべき姿
博士人材の育成・活躍を推進する意義として、四つ挙げている。第一に、諸外国では、博士人材の育成・獲得・活用が積極的に進められている一方、日本は博士号取得者数が低水準かつ横ばいで推移している。また、一部の業界を除き、多くの企業は博士人材を積極的に採用していない。そのため、将来の国際競争力を見据えると、日本は諸外国に劣後する懸念がある。第二に、資源の乏しい日本は「先端技術立国」「無形資産立国」を目指すべきであり、特に少子化・人口減少の進行が著しいなか、高度専門人材の重要性が増している。第三に、高度かつ社会のニーズに合った大学院教育を通じて、高い専門性に加えて、高度な総合知や汎用的能力等を身に付けた人材は、企業で活躍できる領域が広い。第四に、大学発スタートアップの成長にとっても、博士人材の育成は不可欠である。
今後、博士人材の育成・活躍に向けて、産学官がそれぞれの役割を果たしつつ、連携・協働して取り組む必要がある。大学は、仕事という出口を見据え、社会のニーズに合った大学院教育改革を推進すべきである。企業は、大学院教育改革の進展を理解しながら、オンリーワンの成果を出せる博士人材の育成・活躍を推進すべきである。政府は、産学が連携して取り組む大学院教育改革を支援するとともに、博士課程学生に対する経済的支援を拡充すべきである(図表参照)。また、ビジネスとアカデミアを行き来するキャリアを構築できる環境整備も不可欠である。
■ 博士人材をめぐる日本企業の現況
アンケート結果では、博士号を取得している従業員の割合はごくわずかで、その圧倒的大多数が理系博士である。そのうえ、博士人材が活躍する業種や配属先は限定的である。また、今後5年程度先を見通して理系博士を増やす意向の企業は約2割と、現状の採用意欲は高くない。一方、従業員に大学院進学等を促す社内制度を設けている企業は3割程度である。
■ 博士人材の育成・活躍に向けた施策
ジョブ型雇用や経験者採用が増えている今は、博士人材が企業で活躍する好機である。企業や産学連携による取り組みとして、(1)求める人材像の明確化(2)多様なキャリアパスの提示、企業とアカデミアを行き来する環境の整備(3)採用におけるインターンシップの充実と通年採用の推進(4)適切な処遇(5)従業員の大学院進学の促進・支援――等が必要である。一方、大学・政府においては、(1)大学院教育改革の推進とその実績に関わる周知(2)博士課程学生に対する経済的支援(3)ジョブ型研究インターンシップの推進・普及(4)クロスアポイントメント制度(注1)の活用拡大(5)博士人材に対する起業等の促進――に取り組むべきである。
■ 女性理工系人材の育成・活躍に向けて
イノベーションを起こす人材が必要とされる昨今、多様な人材の活躍推進が肝要である。わが国は諸外国と比べて理工系を専攻する女性が少なく、裾野の拡大を急ぐべきである。アンケート結果では、今後5年程度先を見通して、理工系女性の採用を拡大するとする企業は6割強と、高い採用意欲が示されている。
具体的施策として、(1)ロールモデルの一層の周知、キャリア教育の充実(2)理工系分野の職場体験の拡大(3)学校等におけるSTEAM教育(注2)や理工系教育の改善・充実(4)教員・保護者向けの取り組み(5)ジェンダー平等意識の醸成――に産学官が連携して取り組むべきである。
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経団連は、今般の高度専門人材のみならず、わが国の将来を担う人材育成に向けた教育改革のあり方について、引き続き検討を深めていく。
(注1)研究者が大学、公的研究機関、企業のなかで、二つ以上の機関に雇用されつつ、一定のエフォート管理のもとで、それぞれの機関における役割に応じて研究・開発および教育に従事することを可能にする制度
(注2)五つの領域(Science〈科学〉、Technology〈技術〉、Engineering〈工学〉、Art〈芸術〉/Liberal Arts〈教養〉、Mathematics〈数学〉)を対象として、科学技術の素養を涵養するとともに、デザインや芸術、教養の要素を取り入れ創造性も育む教育
【SDGs本部】