経団連は11月28日、過重労働防止への理解と取り組みを呼びかけるため、「過重労働防止対策セミナー」をオンラインで開催した。企業の人事・労務担当者など約200人が参加した。概要は次のとおり。
■ 川人博弁護士(川人法律事務所)
過労死の多くは繁忙部門・業績困難部門において発生している。新規部門を設けた場合も組織として適切に対応できず、量・質ともに過重な負担が労働者にかかり、過労死が発生することがある。特に近時のデジタル産業の急激な発展に人員体制が整わない場合が多い。
また、突然の大災害・疾病感染が発生した場合に、日常的な人員体制では対応できず、極めて過重な労働が求められる。コロナ禍が明けた時に急激な業務量の増大で過労死に至ったケースがあった。
過重労働や過労死を防止するためには、企業トップ・経営層がこの問題に正面から取り組む必要がある。不幸にして疾病・死亡事件等が発生した場合は、事実調査をしっかりと行い、被災者・遺族等への誠意ある対応と職場の改善策の実行が不可欠となる。
過労死やハラスメントは国際的な問題である。企業はそのことを認識し、人権・コンプライアンスに関する国際的な価値基準を社内に徹底することが大切である。
■ 木下潮音弁護士(第一芙蓉法律事務所)
2021年に脳・心臓疾患の労災認定基準が、23年9月に心理的負荷による精神障害の労災認定基準が改正された。どちらの認定基準も、労働時間と労働時間以外の負荷要因が総合評価されるため、長時間労働の防止とハラスメントの防止の両方に効果的に取り組むことが肝要である。
コロナ禍で急速に進んだテレワークは、労働と非労働の区分が曖昧になる危険がある。業務時間外に業務上の連絡を受けない「つながらない権利」の意義を認識することも必要だろう。
また、自主的な長時間労働に隠れたパワーハラスメントや顧客からの圧力がないか、休めないほど追い詰められた職場になっていないか――を確認することも大切である。自社のみならず、サプライチェーンのなかでも生じていないかチェックすべきである。
企業トップには、過労死等の防止は職場における人権尊重であることを自らの言葉でコミットし、従業員が安全で健康な職場で働き続けられる環境づくりが求められる。
■ 東泰弘 富士通健康推進本部健康事業推進統括部長
富士通は、人事と独立した形で健康推進本部を設けており、各事業所に同本部所属の産業医と産業看護職(保健師、看護師)を必ずペアで配置している。
長時間勤務者は全員が業務状況や自覚症状等に関する問診票を提出する。その回答内容や所定外労働時間数、前年度の健康診断結果等により面接対象者を階層化し、効率的に産業医または看護職が面接等を実施している。
また、看護職を職場担当制にすることで、過重労働の状況だけでなく、職場の状況の変化、ストレスチェックの集団分析結果等から多面的に問題を発見できるようにしている。職場マネジメント上の課題に対応できるよう、本部ごとに配置した「職場づくり支援スタッフ」が、現場幹部社員の相談相手となったり、部下社員のアドバイスや面談対応の支援を行ったりと、事業所内の産業保健スタッフや人事との連携の仲介役を担う。
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最後に、国土交通省物流・自動車局貨物流通事業課の運﨑彩香課長補佐が、「わが国の物流の革新に向けた取り組みの動向」と題して、「2024年問題」への対応を中心に関連施策を解説した。
【労働法制本部】