経団連は11月24日、東京・大手町の経団連会館で新しい資本主義に関する講演会を開催した。牛島総合法律事務所の牛島信パートナー弁護士が「コーポレートガバナンスと日本復活」と題して講演した。概要は次のとおり。
■ なぜコーポレートガバナンスなのか
これまでの「失われた30年」を失われた40年、50年としないためには、企業の生産性向上が必要である。生産性向上を実行するのは社長によるリーダーシップの他にはない。「会社は社長次第」ということが大前提にあり、優れた経営者を選定する手段がコーポレートガバナンスである。
長らく、日本企業の社長は社内の一部によって決められてきており、一部の例外を除いて、それが経営者の縮小再生産を招いてきた。これが競争力の低下をもたらし、失われた30年の一因となっている。
■ 背景にある戦後日本の歴史
歴史を振り返ると、戦後のGHQによる財閥解体、その後の相場師による不動産会社株式の買い占め、それに対抗するための企業側による買い戻しという事案をきっかけに、上場会社の株式持ち合いが始まった。その結果、上場会社においては「幹部従業員の協同組合化」が進んだ。「幹部従業員の協同組合化」とは端的にいうと「議決権の棚上げ」である。
1985年のプラザ合意、その後の日米構造協議を経て日本型経営は敗北し、失われた30年へ突入した。米国が強硬な姿勢をとった背景として、当時の米国人の目には、株式の持ち合いを行う日本の上場企業には株主がおらず、アンフェアな存在にみえたのではないか。
■ コーポレートガバナンスと日本経済の復活
バブル崩壊後、30年にわたって日本経済が低迷しているにもかかわらず、日本はいまだ安定した社会構造を獲得していない。その背景の一つとして、日本企業の「幹部従業員の協同体」が株主主権への変化に抵抗したこと、つまりコーポレートガバナンスの欠落があったと考えている。ただ、2015年に導入されたコーポレートガバナンス・コードにより、あと数年で日本は復活すると考えている。そのように考えるのには二つの理由がある。
一つは、機関投資家とアクティビストが協働し、企業のガバナンスを変える例がみられるようになったことである。例えば、株主である投資ファンドと機関投資家が協働し、公私混同が疑われる社長の再任議案が撤回された例や、社外取締役を入れ替えた例がある。もう一つは、独立社外取締役の実質化が進んでいることである。ある巨大企業では、過半数が独立取締役となって、委員会で活発な議論が展開されており、注目に値する。独立社外取締役の役割を実効性のあるものとするためには、この巨大企業のように、経営陣だけでなく、独立性ある指名委員会も独立社外取締役の選任に主導的に関与する必要がある。
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講演後の懇談では、独立社外取締役の候補者選定方法や議決権行使助言会社との対話、日本的なコーポレートガバナンスのあり方等に関して意見が交わされた。
【ソーシャル・コミュニケーション本部】