2024年11月の米国大統領選まで1年を切り、共和党側では乱立していた候補がようやく絞られ始めている。圧倒的優位に立つドナルド・トランプ前大統領は、3回の大統領予備選討論会にいずれも不参加だったが、8月の1回目には8人だった参加者も11月8日の3回目には5人になった。マイク・ペンス前副大統領やティム・スコット上院議員といったメジャーな候補が撤退し、現実的に考えられるトランプ氏の対抗馬は、ロン・デサンティス フロリダ州知事とニッキー・ヘイリー元国連大使にほぼ絞られた感がある。
予備選世論調査では、全米でも初期州でもいまだにトランプ氏が圧倒的にリードしている。トランプ氏抜きの討論会など2位争いにすぎないとの声もあるように、予期せぬ大波乱が起きない限り、トランプ氏の共和党指名獲得は、ほぼ確実なようにみえる。ただ、トランプ氏をめぐってこれまでも予期せぬ大波乱が繰り返されてきたことを考えると、係争中の裁判をはじめ、今後何かが起こる可能性は否定できない。そうした不確実性から、予備選を単なる2位争いではなく、トランプ氏が何らかの理由でつまずいた場合に備え対抗馬を絞り込む「準決勝」と位置付けるのが適切であろう。
ヘイリー氏は、最初の党員集会が行われるアイオワ州のデモインレジスター紙が行った世論調査で2位のデサンティス氏に並び、アイオワの翌週に最初の予備選が行われるニューハンプシャー州でも2位をキープするなど勢いづいている。半面、ヘイリー氏が今後さらに支持を拡大していくのは難しいとの声もある。共和党は強力なトランプ氏支持層(37%)、トランプ氏に否定的ではないが他の候補も支持する可能性のある層(37%)、反トランプ氏層(25%)の3グループに分かれるといわれる。このうち、ヘイリー氏躍進の原動力である反トランプ氏層は党内の少数派である。前述のアイオワ州の世論調査によると、デサンティス氏が脱落した場合、その票の半分近くはトランプ氏に回る一方、ヘイリー氏が脱落した場合、その支持者はトランプ氏よりもデサンティス氏に多く回ると見込まれている。このため対トランプ戦略ということでは、デサンティス氏の方が党内支持を広げる余地がある。加えてデサンティス氏は、アイオワ州での好感度においてトランプ氏を上回っており、人気の高いキム・レイノルズ州知事やキリスト教保守派指導者の支持を獲得している。
しかし、ヘイリー氏の勢いは否めない。ポピュリスト色のより強いアイオワ州ではデサンティス氏の方に伸びしろがあるとしても、ニューハンプシャー州は高学歴で郊外に住む無党派層の有権者が多く、彼らはヘイリー氏の支持基盤である。また、同州の予備選は共和党員だけでなく無所属有権者にも投票権がある。それゆえヘイリー氏にとって、トランプ時代に共和党から離れていった共和党寄りの有権者を呼び戻すことが急務といえる。さらに、緊迫化した中東情勢により、外交問題に注目が集まったこともヘイリー氏には追い風となっていると考えられる。国連大使も務めたヘイリー氏は、外交の知識とタカ派の政策が売りであり、有権者の関心も「強いアメリカ」という彼女の得意分野へと導かれている可能性がある。
民主党には、ジョー・バイデン大統領に対する強力なライバルはいない。しかし、11月に入ってニューヨーク・タイムズ紙とシエナ大学が発表した世論調査において、20年にはバイデン氏が勝った六つの接戦州のうち5州でトランプ氏にリードを許したことを受けて、党内で懸念が広がっている。経済政策への支持については59%対37%でトランプ氏がリードしただけでなく、移民政策、安全保障政策、イスラエル・パレスチナ問題についても10ポイント以上の差でトランプ氏が支持されている。さらに、71%がバイデン氏は高齢のため大統領職が務まらないと答えており、それはバイデン氏支持者の間でも実に54%に上る。
民主党支持者、共和党支持者、無党派のいずれも過半数がバイデン氏対トランプ氏の再戦を望んでいないにもかかわらず、現状ではそうなる可能性が高い。「トランプ氏では本選で勝てない」という他の共和党候補の主張は、11月の世論調査が示すように、突き崩されているのである。当初は、最も戦いやすい相手としてトランプ氏との再戦を歓迎していた民主党側も、ここに来て、よくても五分五分という見通しに浮足立っているようである。
現職大統領の再選のカギとなるのは、1980年に当時挑戦者であったロナルド・レーガン候補が問いかけた、「4年前に比べて生活はよくなったか」である。フィナンシャル・タイムズ紙とミシガン大学が行った世論調査によれば、バイデン氏の大統領就任時に比べて自分の経済状況がよくなったと答えたのはわずか14%で、70%もの人がバイデン政権の経済政策はプラスの効果がなかったとしている。このままバイデン氏対トランプ氏の再戦になれば、1892年以来の現職大統領と前任大統領の対決となる。2022年の中間選挙とは異なり、2人の大統領としての実績が直接比較されることとなる。現職のバイデン氏にとってこの比較は必ずしも有利とはならない。トランプ氏が抱えるリスクを考慮しても、難しい局面を迎えている。
【米国事務所】