経団連の日本イラン経済委員会(宮本洋一委員長)は10月27日、東京・大手町の経団連会館で、最近のイラン情勢に関する懇談会を開催した。慶應義塾大学政策・メディア研究科/総合政策学部の田中浩一郎教授から説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ パレスチナ情勢がイランに与える影響
現下のパレスチナ情勢は、イランを利することもあれば害する場合もある。前者について、一連の中東版デタント(緊張緩和)の流れのなかで進んでいたサウジアラビアとイスラエルの関係正常化交渉が凍結されたことは、イスラエルと敵対し、サウジアラビアとの関係改善を模索するイランにとって悪い話ではない。また、ハマスの攻撃は、イスラエルの防空システムが鉄壁ではないことを知らしめた。さらに、その後のガザへの軍事進攻によって、世界各地でイスラエルとイスラエルを支持する欧米への批判的な動きが広がっており、イランに有利に働くと考えられる。
後者については、イランの代弁者としてイスラエルを至近距離から攻撃できるハマスやヒズボラなどが、イスラエルの反撃によって大きな痛手を被り、同国への至近距離からの攻撃能力が消失してしまう可能性がある。イランがこれらの組織に支援を続けてきたことは明らかである。責任を問う声が一層高まれば、今後、経済制裁の長期化や拡大につながり、イランにとって厳しい状況を招くかもしれない。
■ 内外に懸念を抱えるイランの動向に注目
イランは、ウクライナに侵略したロシアにドローンを提供したとして非難されてきた。これについて、ドローンはロシアのウクライナ侵略以前に渡したものであり、責任はないと主張している。しかしながら、イラン核合意を支持した国連安全保障理事会決議2231号は、イランのドローンを含む武器輸出を制約しており、同決議に違反した事実については言い逃れができない。ただし、同決議については、2020年10月に通常兵器の移転に関する規制が、23年10月に核弾頭を搭載可能な弾道ミサイル開発に関する規制がそれぞれ失効している。加えて25年10月には、ウラン濃縮にかかわる制約についても効力を失う。
今後は、(1)イランがロシアに弾道ミサイルを供与するのか(2)イランがウラン濃縮をすでに60%まで進めている状況に欧米がどう対応するのか――などが焦点となる。なお、米国が離脱したイラン核合意の再建は、新たな合意案ができたとしても、「イラン核合意見直し法」が求める米国議会の承認は得られず、事実上不可能となっている。
イラン国内に目を転じれば、ヒジャブ着用をめぐる女性の死亡事件を契機とするデモが弾圧され、国際社会から人権抑圧として批判を浴びている。また、一部ではハメネイ最高指導者の健康不安説も伝えられており、後継者への関心が高まりつつある。引き続き、イランの国内外における動向を注視していく必要がある。
【国際協力本部】